ミニマル・ミュージックの小品といった趣の、
南アのお婆さんによる口琴、口弓、楽弓のソロ演奏集。
これほど純度の高い伝統音楽を聴くのは、ずいぶんひさしぶりな気がします。
心を落ち着けて耳を傾けると、素朴な楽器から奏でられる、
聖なる響きがじんわりと身体に染み入ってくるようで、
すっかりお気に入りになってしまいました。
6年も前にリリースされていたようなんですけれど、自主制作の南ア盤のせいで、
ぜんぜん気付きませんでした。フィジカル110部限定といっても、いまでも入手可能なんだから、
ちっとも売れていないってことですよねえ。もったいないなあ。
マドシニというこのコサ人のお婆さんは、マンデーラ大統領もお気に入りの伝統音楽グループ、
アマンポンドの世界ツアーに同行して、海外にもその名を知られるようになった人。
外向けを強く意識したアマンポンドの創作伝統音楽は、ぼくは感心しませんでしたが、
そんなアマンポンドの姿勢とは真逆の、自然体に歌うマドシニには好感を持っていました。
海外のフェスティバルに数多く参加し、文化大使的な役割を果たしたアマンポンドは、
その戦略的な売り出し方で成功しましたけれど、
マドシニは一介の伝統的な歌うたいであり続けたからこそ、
アマンポンドの作為性を身に着けずにすんだように思えます。
マドシニは98年にもソロ・アルバムを出していて、
そちらではアマンポンドのコーラスも交えた躍動感溢れる伝統音楽となっていましたが、
本作は一転して、自己の内面に語りかけるような、静謐な音楽となっています。
口琴(イシトロトロ)、口弓(ウンルベ)、楽弓(ウハディ)による完全独奏は、
ミスティックなサウンドに満ちていて、スピリチュアルなムードに包まれます。
98年作には、グレッグ・ハンターによるダブ・ミックスが2曲入っていて、
相変わらずのアマンポンド絡みの作為性に鼻白んだものですが、
ダブ・アンビエントなどというヨーロッパ白人の小賢しいテクニックを蹴散らす、
天然アンビエントなミニマル・ミュージックがここにあります。
Madosini "EPARADESI NKOSI UZUBE NAM" New Cape NC08 2010 (2010)
Madosini "POWER TO THE WOMEN" Melt Music BWSA108 (1998)