アルバムを聴き進めるうちに、胸のドキドキが止まらなくなりました。
プログラミングのサウンドがこんなに新鮮に響くアフリカン・ポップスを聴くのは、
サリフ・ケイタの『ソロ』以来、35年ぶりだぞ。こりゃあ、事件だ!
80年代のワールド・ミュージック時代のアフリカン・ポップスといえば、
エレクトリック・サウンドが席巻していたわけですけれど、
なかでもサリフ・ケイタの『ソロ』のサウンド・プロダクションが、
あの時代を代表した作品であったことは、いまも揺るぎない評価でしょう。
『ソロ』のサウンドを生み出したのは、
アレンジャーのジャン・フィリップ・リキエルでした。
当時サリフはリキエルについて、
「リキエルは俺の唄っていることが直感で理解できるんだ。
まるでアフリカ人みたいな奴だよ。きっと盲目だから黒人のようなフィーリングを
持っているのかもしれないな」(『アフリカン・ロッカーズ』 232ページより
エレン・リー著 鈴木ひろゆき訳 JICC出版局、1992)と発言しています。
当時のパリのスタジオでリキエルは、アフリカのミュージシャンからひっぱりだこで、
シンセ音を聞けばリキエルの仕事とすぐわかる作品が、数多く残されています。
リキエルのシンセ・サウンドが、
あまりに一時代のアフリカン・ポップスを象徴する音となったせいもあって、
その後90年代に入って、アフリカン・ポップスがアクースティック志向にシフトすると、
そのシンセ・サウンドは急激に色褪せて古臭くなり、姿を消してしまいました。
それだけに、これだけシンセとプログラミングが
全面的に展開するアフリカン・ポップスはひさしぶりで、すごく新鮮に聞こえます。
マリのグリオ出身の歌手で、レ・アマゾーヌ・ダフリークのシンガーのひとりである
ロキア・コネと、U2、R.E.M、テイラー・スウィフトを手がけたプロデューサー、
ジャックナイフ・リーの共同名義作。
ジャックナイフ・リーという人の仕事は、ぼくはまったく知らないんですけど、
この人、アフリカ音楽がわかってますね。マンデ・ポップのグルーヴを
きちんと活かしたプログラミングを施していて、
まさしくジャン・フィリップ・リキエルの仕事を継ぎつつ、
アンビエントなサウンドは、現代的にアップデートされているのを感じさせます。
これぞグリオの声といえる、サビの利いたロキア・コネのヴォーカルが、
ぴちぴちと飛び跳ねていて、耳の快楽をこれでもかと堪能させてくれますよ。
やっぱりこの素晴らしい歌声あってこその、このサウンドですもんね。
クレジットをみると、ジャックナイフ・リーは作曲もロキアと共同クレジットとなっていて、
曲づくりから関わっているようです。
ロキアのヴォーカルは18年にパリで録音されたとあり、
レコーディングが早い段階からスタートしていたものの、その後のパンデミックによって、
ファイル交換などによって制作されたものと思われます。
ベーシック・トラックを損なわないサウンドの構築ができたのは、
そうした制作過程がかえって功を奏したのかもしれませんね。
クレジットを見ていて、あれと思ったのは、ロキアのヴォーカル録りに
パトリック・ルフィーノの名があったこと。
かつてトーゴのキング・メンサーとも来日したベニン人ベーシストですけれど、
ルフィーノはこんなエンジニアリングの仕事もするのか。
パリを拠点に活動しているので間違いないと思いますけれど、
まさか同姓同名の別人じゃないよね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-05-27
ジェンベやドゥンドゥン、タマのビートをプログラミングが強化したり、
カマレ・ンゴニとミニムーグのベース音が絡むバックに、
プログラミングがドローンのように鳴り響いていたり、
聴けば聴くほど、よくできています。
ラスト・トラックの、バック・コーラスが蜃気楼のように聞こえてくる
サウンド効果なんて、すごく新しく感じますよ。
Rokia Koné & Jacknife Lee "BAMANAN" Real World CDRW239 (2022)