エチオ・ジャズに触発されたバンドが、世界中から登場するようになって、はや10年。
数あるバンドのなかでも、充実した作品を出し続けているのが、
ベルギーのブラック・フラワーです。
以前、14年のデビュー作を紹介しましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-04-30
記事にしそびれた16年のセカンド作“ARTIFACTS” が、すんごい傑作でした。
エチオピア旋法のメロディをリードするオルガンとアフロビートが合体し、
サイケデリックなエフェクトやダブも入り混じって、
エチオ・ジャズを超越した世界を展開していましたね。
デビュー作の音楽性をさらに深化させた、濃密で、ミスティックなアルバムです。
ブラック・フラワーに感心させられるのは、曲やアレンジにフェイクが皆無なところ。
西洋人がイメージするエキゾティックな着想という次元を、
完全に乗り越えているんですよ。
それこそ、エリントンの「キャラヴァン」とか、
ガレスピーの「ナイト・イン・チュニジア」の通俗・陳腐なオリエント趣味から、
半世紀以上を経て、西洋人もここまで到達したのかという感を強くします。
エチオピア人よりもエチオピアらしいとすら感じることもある彼らの楽曲ですが、
とはいってもやはりエチオピア人ではできないであろう、
他の文化圏の民俗音楽も参照しながら、エチオピア音楽を俯瞰する視点が、
彼らの強みのように思えます。
それが、新作でさらに発揮されていますね。
これまでになく内省的な曲が並んだ新作ですけれど、
タイトルの『マグマ』がいみじくも暗示するかのような、
内にエネルギーをぐっと圧縮させたパワーを感じさせる演奏です。
19年作“FUTURE FLORA” では、楽曲が地味だったのと、
演奏がやや淡白でしたけれど、今作はだいぶ印象が違いますね。
前任のオルガン奏者のサイケデリックなトーンから、
一変したサウンドを生み出しているのは、
新加入のキーボーディスト、カレル・クエレナエール。
浮遊するようなサウンドスケープが、このバンドに新たな景色を与えています。
また今回、初めてヴォーカリストをフィーチャーしたのも白眉ですね。
ラストのワシントを吹く曲は、エチオピアと日本とインドネシアがミックスしたような、
なんとも魔訶不思議なメロディとリズムの曲。
ワシントがスリンのように聞こえるのは、5音音階がなせるわざなんですけれど、
インドネシアのペロッグやサレンドロを参照しているのかも。
そういえば、“ARTIFACTS” では、インドネシアの民俗楽器アンクロンを使っていたっけ。
サックス奏者のナタン・ダムスは、デビュー作以来、
ワシントのほかにバルカンの笛カヴァルも吹いていますけれど、
アルバムを重ねるごとに、ますます独自のオリエンタル・ジャズのサイケ表現を深め、
いまや成熟の域に達しているのを感じます。
Black Flower "ARTIFACTS" Zephyrus SDBANUCD02 (2016)
Black Flower "MAGMA" Zephyrus SDBANUCD22 (2022)