ミャンマーCDを買う楽しさは、ジャケ買いにありますね。
今日びジャケットを睨んで、あてずっぽうに買うしかないほど、
事前情報がない音楽なんて、ミャンマー音楽くらいのもんですよ。
だからこそのワクワク感、情報洪水のネット時代ではなかなか味わえない、
半世紀近く前のアフリカ音楽を聴き始めた頃の冒険心をくすぐられます。
で、このCD、電子ピアノに向かう老人と、その脇に立つ初老の男を捉えたジャケット。
これを見てピンときたのが、サンダヤー・ チッスウィです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-06-17
しかし、サンダヤー・ チッスウィよりはるかに年配にみえる二人なので、
往年のビルマ歌謡時代の曲集なのではと、期待がふくらみます。
二人がどこの誰やらかもわからず、買ったわけなんですが、
聞いてみると、サンダヤー(ピアノ)とリズム・キーパーの
シー(ミニ・シンバル)・ワー(ウッド・ブロック)のみの伴奏で歌っているんですね。
サンダヤー・ チッスウィのようなミャンマータンズィンではなく、
シンプルな「声とサンダヤー」アルバムで、
レパートリーもいかにも古そうなビルマ時代の曲に聞こえます。
調べてみると、47年から音楽活動を始めたという大御所の歌手、
コー・ミンナウンという人でした。30年ヤンゴン生まれというので、
日本なら三橋美智也と同い年の人です。いまもご存命らしく、
このアルバムは02年に出たものなので、72歳のときのアルバムですね。
そして、サンダヤーを弾いている人が、これまたミャンマー音楽家の重鎮でした。
その名は、ギータルーリン・マウンコーコー(1928-2007)。
ギータルーリンとは「音楽青年」という敬称で、マウンコーコーで通じます。
第二次世界大戦前から無声映画のバンド・リーダーを務めて、
映画音楽やラジオ放送の活動をし、戦後を通じて数多くの名曲を残した作曲家とのこと。
50年にウィンウィン劇場で音楽監督を務め、
66年にはミャンマー音楽評議会の議長に就任しています。
93年にはニュー・ヨークのアジア文化評議会の客員教授に迎えられ、
その後、北イリノイ大学、ウィスコンシン大学、ケント州立大学、
カリフォルニア大学バークレー校、モントリオール大学ほか数々の大学で、
ミャンマー音楽と楽器を教えているんですね。
晩年には、ミャンマー映画アカデミーの音楽最優秀賞を
3回(91・94・02年)受賞したほか、07年10月10日に亡くなる直前の8月10日、
ヤンゴンの国立芸術文化大学教育部から、名誉音楽博士号を授与されています。
タイトル曲の‘Chit Moe Gyi’ は、ヤンナインセインが作曲し、
テイテイミンが歌った不朽のラヴソング。
マーマーエー、トゥーマウン、ピューティーなど、多くの歌手にカヴァーされています。
無声映画時代のラヴ・ソングには、いい曲が多いんですね。
マウンコーコーの粒立ちのよいピアノのタッチにのせて、
少し枯れた味わいもあるコー・ミンナウンの歌が、
古き良きビルマ時代のメロディの良さを再現しています。
マウンコーコー最晩年にあたる本作(ラスト・レコーディング?)は、
この二人だから残せた名盤ではないでしょうか。
Ko Min Naung "CHIT MOE GYI" Cho Kyi Tha no number (2002)