カタルーニャの小さな町アヴィニョから登場した、新進トランペット奏者のグループ。
小学校の音楽教師を母親に持つアルバ・カルタは、
18歳年の離れたジャズ・ギタリストの兄の影響からジャズに興味を持ち、
トランペットを演奏するようになったといいます。
カタルーニャではジャズを本格的に勉強する環境がなかったことから、
オランダへジャズ留学し、ハーグの音楽院で学びながら、自己のグループを結成、
18年に早くもファースト・アルバムを出したとのこと。
その後、アムステルダムに移って、オランダの名門、
アムステルダム国立音楽院でジャズ・トランペットの修士号を取得しています。
2作目となる本作では、オランダ留学時代の体験をインスピレーションに、
作曲に力を入れたとアルバは語っています。
トランペット、サックス、ピアノ、ベース、ドラムスのメンバー各自が、
自由闊達に押し引きしあって、緩急をつけながら、
アンサンブルの緊張度を高めていくのに、恰好のマテリアルが並んでいますね。
リズムがひんぱんに変化する構成が巧みで、ピアノとドラムスに顕著に聴き取れる、
メンバーの資質に合わせたアレンジの工夫を感じます。
特に聴きものなのが、‘Oceans’。
冒頭から推進力のあるドラムにのせて、トランペットとサックスがテーマを合奏し、
ブロック・コードでガンガン打ち付けていくピアノをバックに、
トランペットとサックスがソロを応酬し合います。
中盤のカデンツァでリズム・セクションが退くと、サックス・ソロのバックで
ピアノがフリーに動き始め、やがてピアノが音を止めると、
トランペットの無伴奏ソロへと場面は展開。
そのトランペットがすっと音を消した瞬間、冒頭のテーマが炸裂します。
スケール感のあるこの曲、ミュージック・ヴィデオも制作されています。
青いプールにサイド・テーブル、ナイト・スタンド、ベッドが沈められていき、
目隠しをしたアルバがベッドの方へと沈んでいきます。
アルバは沈んだトランペットを手に取り、水中で演奏を始めます。
そのシュールな映像は夢想的で、楽想とはまた異なる世界を見せてくれます。
赤・白・青を基調としているのは、オランダ国旗の色を暗示しているのかな。
このアルバムでアルバの自作曲でないのは、カタルーニャの詩人ペレ・クアルトが
47年に亡命先のチリで書いた詩に、シンガー・ソングライターでカタルーニャ独立運動家の
リュイス・リャックが曲をつけた‘Corrandes d'exili’ の1曲。
スペイン内戦後、フランスに強制移住させられたカタルーニャ人を描いたこの曲を、
アルバ自らが歌い、カタルーニャ人としての立ち位置を確かめています。
奇しくも、カタルーニャ出身の女性トランペッター(しかもアルバと同い年!)で、
シンガーとしても人気の高いアンドレア・モティスが新作を出したばかり。
アンドレアはオーソドックスなジャズですけれど、アルバはバリバリの新世代ジャズ。
グローバル・ジャズ最前線に飛び出したカタルーニャの硬派の才能、要注目です。
Alba Careta Group "ALADES" Microscopi MIC164 (2020)