ビル・サマーズといえば、
ハービー・ハンコック・グループで活躍した名パーカッショニスト。
ビル・サマーズで一番思い出深いのは、
なんといっても73年の歴史的傑作“HEAD HUNTERS” で、
バベンゼレ・ピグミーの笛、ヒンデウフーをビール瓶で再現したプレイですね。
サマーズは、ドイツ、ベーレンライター盤
“THE MUSIC OF THE BA-BENZÉLÉ PYGMIES” でヒンデウフーを知ったそうで、
僕もまったく同じだったので、めちゃシンパシーを感じたものです。
クロスオーヴァー(ヘッドハンターズ)、ディスコ(サマーズ・ヒート)、
映画音楽(クインシー・ジョーンズ)、アフロ・キューバン
(ロス・オンブレス・カリエンテス)などなど、幅広い演奏活動をしてきた
サマーズですけれど、そうした活動の合間をぬって、
キューバ、マタンサスのサンテーロのもとへ通い、バタ・ドラムを習得しています。
もともとレオン・トーマスのバンドのパーカッショニスト二人からの影響で、
バタの演奏を始めたというサマーズですが、
02年には、35年間に及ぶバタ研究の成果をまとめ、
“Studies in Bata from Havana to Matanzas” という研究書を出版しています。
そんなバタ奏者の面目躍如たる、ビル・サマーズの新プロジェクトが始動しました。
マルチ奏者のプログラマー、ワン・ドロップ・スコット(スコット・ロバーツ)と組んで、
ラップ・デュオのクルズマティックに、
ヴォーカリストのシモネ・モーズリーを加えたユニット、
フォワード・バックのデビュー作です。
バタ3台が織り成すリズムにプログラミングが絡むリズム・トラックに、
ラッパーとヴォーカリストが交叉してカラフルなサウンドを展開する
‘Yellow Flowers’ から、トロピカル感いっぱい。
ゲストのスティール・ドラムが、リゾート気分をさらに盛り上げます。
オシュン、シャンゴ、オバタラ、エレグア、ルクミと、サンテリーアの神々をライムする
‘Elevate’ でも、サンテリーアの儀式的な神聖なムードなんぞみじんもなく、
軽やかなステップで、腰も揺れようかといった気分のトラック。
こんなにあっけらかんと、ポップな仕上がりだとは、予想だにしませんでした。
ちょうど今年、ビル・サマーズがバタでゲスト参加した
パーカッショニスト、オトゥラ・ムンのプロジェクト、イフェの新作“0000+0000” が、
かなりドープなサンテリーア・エレクトロ・アンサンブルだったもんで、
あんな感じなのかなと身構えていただけに、拍子抜け。
でも、この明るさ、嬉しいじゃないですか。
めっちゃ健康的で、長かったコロナ禍のグルーミーな気分を吹っ飛ばしてくれますよ。
ベイエリア出身というシモネ・モーズリーの突き抜けたヴォーカルも、いいなあ。
ジョージ・クリントンのゲストは、期待ほどじゃありませんでしたが、
ハイチ~キューバ~ニュー・オーリンズを巡るアフリカン・ディアスポラの息吹を、
これほどおおらかに表現できるのは、サマーズのキャリアのなぜる業でしょうね。
Forward Back "VOLUME 1" Ropeadope RAD658 (2022)