歌い出しの第一声に、ゾクゾクッ。
爆発的ヒットを呼んだデビュー作から4年を経て出た、エラ・メイの2作目。
あのデビュー作には、いささか不満もあったんですが、
本作は1曲目の‘Trying’ の歌唱から、グイグイ引き込まれました。
エラ・メイの声には、豊かな質感がありますよね。
声が立って聞こえるのは、そういうことでしょう。
デビュー作にあった幼さが消えて、本作では発声の強弱を絶妙にコントロールした、
弾力のある歌いぶりを聞かせてくれます。
呼吸するように軽やかにメゾ・ソプラノで歌ったり、
アルト・ヴォイスでわざと平坦に歌ってみるなど、
多彩なヴォーカル表現を披露していて、どのような歌いぶりでも、
ディクションがめちゃくちゃいいのが、エラのスゴさですね。
デリケートに作り込んだプロダクションも、実に充実しています。
今作ではトラップのリズム・トラックを後退させ、
アクースティック・ギターやピアノ、ヴァイオリンなどの生音を前面に出しています。
レイヤーされたシンセやコーラスが、たゆたうサウンドスケープをかたどっています。
深夜のベッドルームで聴くのにふさわしく、センシュアルなサウンドは濃密で、
部屋の四隅まで甘美な音塊が満たされていくかのよう。
バウンシーなビートとクラッシュ音を組み合わせた曲を配置したり、
808を使ったとおぼしきスロー・ジャムをはさんだりと、
アルバムに起伏を与えています。
カーク・フランクリンと聖歌隊をフィーチャーした曲では、
カークが説教するパートがあるなど、1曲のなかにさまざまな物語を落とし込まれていて、
一篇の短編小説を読むような曲づくりに、ソングライターとしての成長も感じます。
参加ゲストでは、ロディ・リッチやラトーの起用は成功していますが、
メアリー・J・ブライジは疑問だなあ。
エラ・メイとの相性が良い相手とは思えず、メアリーも所在なさげで、
これはキャスティング・ミスだったんじゃないかしらん。
ジャケットのアートワークが断然いいターゲット盤の方を買ったんですけれど、
中身を聴いてみたら、通常盤のアートワークの方が内容に合ってますね。
ちなみに今回のターゲット盤は、通常盤と同じ曲数で内容は同じです。
違いはアートワークだけなので、念のため。
Ella Mai "HEART ON MY SLEEVE Target Exclusive version" 10 Summers/Interscope B0035562-02 (2022)