ガーナ人ジャズ・トランペッターのデビュー作が、オランダから登場。
ピーター・ソムアーは、マイルズ・デイヴィス、クリフォード・ブラウン、
フレディー・ハバード、ロイ・ハーグローヴの影響を受けて、
トランペットを学んできたという俊英。
ガーナで出会ったオランダ人のガールフレンドを追いかけてオランダへ渡ったらしく、
ロッテルダムのアート・スクールでジャズを学ぶかたわら、地元ミュージシャンたちと
ジャズ・セッションを重ね、自己のセクステットを結成したといいます。
このグループで昨年、新進気鋭のジャズ・ミュージシャンに贈られる
エラスムス・ジャズ賞を受賞して、スポンサーから3000ユーロをゲット。
それが今回のデビュー作につながったようですね。
テナー・サックス、キーボード、ベース、ドラムス、パーカッションによるセクステットは、
ピーター以外全員白人で、メンバーの名前から察するに、全員オランダ人のようです。
70年代クロスオーヴァー時代を思わせるジャズ・ファンクに、
ガーナの伝統リズムとヒップ・ホップを乗り入れたサウンドと表現すればいいのかな。
今日びアフロビートやハイライフではなく、こういうアフロ・ジャズ・ファンクを聞かせる
グループというのは珍しく、かえって新鮮に響きますね。
オープニングのタイトル曲から、
アンサンブルが一丸となって突進していく熱量が高く、スリリング。う~ん、燃えますねえ。
テナー・サックスのジェシー・シルデリンクの、
主役を食ってしまうようなブロウには手に汗握ります。
2曲目の‘Appointment’ は、冒頭アフロビートでスタートするものの、
一転ラテン・ジャズにスイッチして熱く盛り上がり、
終盤はギクシャクしたリズムに変わってエンディングとなる、面白い構成の曲。
ライナーによると、最後のリズムはエヴェ人のアバジャを使ったそうです。
ガーナの伝統音楽は、短いインタールードの4曲目で聴くことができ、
ガ=アダンベ人の伝統ダンス、フメ・フメを
パーカッション・アンサンブルが演奏しています。
優雅なジャンプとキックを組み合わせたフメ・フメは、
ガ=アダンベ人のさまざまな社交の場で演じられてきたダンスですね。
70年代にムスタファ・テディ・アディが、
ガのリズムにコート・ジヴォワールのリズムをミックスして
コンテンポラリーな伝統ダンスへと刷新し、広く知れ渡るようになりました。
ゲストでギターとフルートが参加する曲があるほか、
ガーナ人ラッパーのデラシと、ロンドンで活躍する香港育ちのネパール人ラッパー、
アマズミをフィーチャーした曲もあります。
全体にセブンティーズぽいオールド・スクールなサウンドで、
新世代ジャズのニュアンスはないのに、すごくイマっぽく聞こえるのは、
サンダーキャットに通ずる魅力があるような気もしてきますね。
適度にラフな演奏が好ましく、
ライヴ感たっぷりのエネルギーを音盤に刻み込んだ傑作です。
Peter Somuah "OUTER SPACE" Dox DOX617 (2022)