リトル・シムズやギグス、パ・サリュの新作など、
各方面からひっぱりだこという注目のUK新人、まずその名前に惹かれました。
オボンジェイアーって、ぜったいナイジェリア人でしょ。
と思ったら案の定で、本名スティーヴン・ウモー。
ナイジェリア南東部クロス・リヴァー州カラバール育ちで、
17歳でイギリスへ渡り、本格的に音楽活動を始めるにあたって、
父親の名前にちなんで jayar をとり、地元の王様を指す obong を接頭辞につけ、
ステージ・ネームにしたんだそうです。
オボンというのはイボ人の伝統的首長(王)のことだから、
ウモーはイボ人なのかな。カラバール育ちということは、イビビオ人かも。
イビビオ人の母のもとロンドンで生まれた女性シンガー、
イーノ・ウィリアムズのバンド、イビビオ・サウンド・マシーンなんて例もあるしね。
R&B、ヒップ・ホップ、アフロビート、ダブ、ベース・ミュージックが混然一体となった、
エッジの利いたサウンドが強烈で、これがいまのロンドンの最先端なんでしょうか。
ゲストのヌバイア・ガルシアのサックスが、ここぞというスペースを与えられて、
際立って聞こえるところも、アルバムのハイライトになっていますね。
作り込まれたプロダクションが、複雑なテクスチャを持っていて、
こんな音がここに配置されていたのかと、聴くたびに新しい発見があります。
リヴァーブのかかったふくよかなシンセ、キラキラ音のエレクトロ、飛び道具のようなEQ、
妖しくうごめくシンセ・ベース、サンプリング・パーカッションの生っぽい響き、
不吉なドリル・ビートなどなど、アルバム全体はリリシズムに富んだ
優美なサウンドで占められているものの、随所で不穏や怒りが顔をのぞかせます。
カメレオンのようなサウンドを凌駕するのが、オボンジェイアーのヴォーカルとラップで、
甘いファルセットで歌ったり、温もりのある柔らかな声でソフトな唱法をする一方、
ダミ声でピジン・イングリッシュを歌ってみたり、
粗削りな声でラップするざらりとしたフロウなど、
両極端に振れた声を、巧みに使い分けています。
パーカッシヴなディクションにも、耳を奪われますね。
波打つようなメロディや、レイヤーされたサウンドにのる、
豊富なヴォキャブラリーのヴォーカルに、ただただ感心するばかり。
洗練と野性、硬質なのに甘美といった両極端が、無理なく同居している不思議さ。
ヴォーカル、サウンドともにカメレオンのようなキャラクターは
とても謎めいていて、惹かれずにはおれない音楽です。
Obongjayar "SOME NIGHTS I DREAM OF DOORS" September Recordings SEPCD008 (2022)