ロス・アンジェルスからエチオ・ジャズのアルバムが届きました。
トランペット奏者のトッド・サイモン率いるエチオ・ジャズ・バンド、
エチオ・カリのキーボーディスト、キブロム・ビルハネのリーダー作です。
エチオ・カリのゆいいつの作品である、14年に出たライヴ録音のカセットでは、
キブロム・ビルハネは不在でしたけれど、新世代ジャズ・ファンが注目しそうな
カマシ・ワシントン、マーク・ド・クライヴ=ロウ、
ヴァルダン・オヴセピアンなんてメンツが参加していました。
ただ残念なことに、エチオ・カリはまだスタジオ録音がないんですよね。
キブロム・ビルハが、エチオ・カリに先んじてスタジオ・アルバムを出したわけなんですが、
エチオ・カリからサックスのランダル・フィッシャー、ギタリストのナダヴ・ペレド、
パーカッションのカヒル・カミングスの三人が参加しています。
エチオピア人メンバーは、8・9・10曲目でベースを弾く、
アディス・アベバで売れっ子のベーシスト、ミスガナ・ムラットだけのようですね。
オーヴァーダビングなしの一発録りのレコーディングだそうで、
きっちりリハーサルを積んだことがわかる、しっかりとしたアンサンブルを聞かせます。
バンドキャンプの紹介には、
「エチオ・ジャズとスピリチュアル・ジャズの融合」なんて書かれていますが、
何を指して「スピリチュアル・ジャズ」と称するのか、意味不明。
スピリチュアルを名乗るような攻撃的、ないし瞑想的な演奏はなく、
いたって標準的なムラトゥ・アスタトゥケ直系のエチオ・ジャズが展開されていて、
アメリカ人が聞き慣れないエチオピア音楽の旋法に、
「スピリチュアル」と誤読してるだけとしか思えません。
というのも、ヨーロッパと違って、アメリカの音楽ジャーナリズムでは、
エチオピア音楽に無知丸出しな記事をちょくちょく目にするからで、
本作のレヴューでも、ティジータの ‘Weleta’ を「アフロ・ラテン」だとか、
「ボサ・ノーヴァの影響」(リム・ショットにボサ・ノーヴァを連想する悪癖)なんて
書いていたりするから、ヒドイもんです。エチオピア音楽のレヴューを書くのに、
ティジータも知らないなんて、勉強して出直してこーい!
というわけで、ジャケットこそ、サン・ラを思わすコズミック/サイケ趣味の
アートワークですが、内容はスピリチュアルともサイケとも無縁な、
オーソドックスなエチオ・ジャズ。
キブロムは鍵盤だけでなく、クラールも弾いていて、歌も歌っています。
アフロビートのニュアンスを加えた‘Merkato’、ソウル・ジャズ風味の‘Maleda’、
キブロムがヴォコーダーを駆使したエチオ・ファンク仕立ての‘Tinish Tinish’ など、
さまざまなアイディアを施しているのも楽しめますね。
キブロムは、19年10月6日、アディス・アベバで開催された
アディス・ジャズ・フェスティヴァルに招聘され、ハイル・メルギア、サミュエル・イルガ、
ケイン・ラブ、アレマイユ・エシュテといったアクトとともに演奏を行っています。
そのときのメンバーを見たら、ぼくが注目しているギターのギルム・ギザウがいて、
嬉しくなってしまいました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-03-04
歌手中心のエチオピア音楽シーンでは、
なかなか活躍の場が少ないエチオ・ジャズだけに、
こういうアルバムが登場するのは、嬉しい限りです。
Kibrom Birhane "HERE AND THERE" Flying Carpet no number (2022)