60年ぶりによみがえった、マックス・ローチの“IT'S TIME”!
これを聴いたら、ジャズ・ファンの誰しもがそう思いますよね。
アイディアの源はそれとわかっても、
本作はあのアルバムの焼き直しでも、イミテイションでもありません。
ここに込められたエネルギーは、公民権運動に呼応したマックス・ローチの気概を、
現代に受け継いだものと、はっきり伝わってくるじゃないですか。
これぞ、ブラック・ミュージックとしてのジャズでしょう。
いやぁ、度肝を抜かれましたねえ。
ジャケ写にただならぬ雰囲気を感じたとはいえ、これほどの内容だとは。
ンドゥドゥーゾ・マカティーニの新作にぶっ飛んだばかりというのに、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-06-08
またしても南アから、黒人意識を鮮明にしたジャズ作品が登場しました。
奇しくも、シャバカ・ハッチングスのジ・アンセスターズで、
ンドゥドゥーゾとともに活動しているドラマー、トゥミ・モゴロシのリーダー作であります。
ピアノ、ベース、ドラムス、アルト・サックス、トランペット、ギターのセクステットに、
テンバ・マセコ指揮による9人の合唱団が加わって制作されています。
合唱団を活用したジャズ作品は、マックス・ローチの“IT'S TIME” 以降も、
ドナルド・バードの “A NEW PERSPECTIVE”、
アンドリュー・ヒルの“LIFT EVERY VOICE”、
ビリー・ハーパーの“CAPRA BLACK” があり、
アフリカン・ディアスポラのブラック・ジャズの伝統といえますね。
南ア音楽史においても、オール黒人キャストのジャズ・オペラ
“KING KONG” があるように、トゥミ・モゴロシはそうした先人たちの
スピリットを受け継いでいるといえます。
トゥミのオリジナル曲に加えて、スピリチュアルの名曲
‘Sometimes I Feel Like A Motherless Child’ を取り上げたのも、
大西洋を隔てながら、黒人同士の連帯を確かめようという意志を感じます。
ラスト・トラックで、南ア詩人のレセゴ・ランポプロケンが朗読して、
このアルバムのフィナーレを飾っていますが、レセゴ・ランポロケンは、
アメリカのサックス奏者サリム・ワシントンが、
南アのジョハネスバーグでレコーディングした
17年作“SANKOFA” (デジタル・リリースのみ)にも参加していましたね。
このアルバムには、トゥミのほか本作のベーシストのダリス・ンドゥラジに、
ンドゥドゥーゾ・マカティーニも参加していたので、
本作の制作のヒントになったのかもしれません。
不安と不協和を示す男女合唱が終末感を漂わせる一方、
点描的なドラミングがアンサンブルを自由に動かし、
両者の相互作用を引き出していきます。
セクステットがパンチの利いた即興を奏でている間、
じっさいは合唱隊は休んでいるのに、恐怖を暗示する合唱隊の声が
背後から聞こえてくるような気がして、トゥミのアレンジのたくらみを感じます。
Tumi Mogorosi "GROUP THEORY: BLACK MUSIC" Mushroom Hour Half Hour/New Soil M3H010/NS0023 (2022)
Max Roach His Chorus and Orchestra "IT'S TIME" Impulse! IMPD185 (1962)
Donald Byrd "A NEW PERSPECTIVE" Blue Note CDP7-84124-2 (1964)
Andrew Hill "LIFT EVERY VOICE" Blue Note 7243-5-27546-25 (1970)
Billy Harper "CAPRA BLACK" Strata-East SECD9019 (1973)
v.a. "KING KONG: ORIGINAL CAST" Gallo CDZAC51R
Salim Washington "SANKOFA" (2017)