久しぶりに中国系の女性歌手に蕩けました。
その繊細な歌いぶり、かすかに幼さを残したひそやかな歌い口に、
胸の動悸がとまらなくなって、困っちゃいましたよ。
台湾で活躍する大陸出身のリー・ヤシャーの3作目にあたる13年作。
上海生まれの大陸の女性歌手が台湾でデビューする、しかも台湾語でって、
非常にビミョーというか、いや、むしろ意志のある立ち位置とも思えますが、
台湾のグラミー賞ともいえる金曲獎で、
13年に最優秀女性歌手賞を受賞している人だそうです。
感傷的なメロディを慈しむように丁寧に歌う、静かなたたずまいに惹かれます。
歌唱の表現はけっして過剰になることがなく、抑制されているので、
すがるような歌いぶりをしても、うっとうしくならないんですね。
タメ息をもらすような歌い口にわざとらしさがなく、下品にならない。
ふんわり舞う声が、風にのってゆらめく紫煙のようです。
そんなリー・ヤシャーのヴォーカルを優しく包むプロダクションが、また見事。
ゴージャスなストリングス・オーケストラを使いながら、
歌のかなり後方で静かに鳴らすミックスにしていて、
歌を引き立てることに、細やかな神経を配っているのを感じます。
アクースティック・ギターの後ろで、ひっそりと胡弓と鼓を鳴らして、
ほのかな中華風情を香らせてみたり、
スウィング・ビートにのせたオーケストラ・アレンジの曲で、
曲中でリズムを何度もチェンジさせるアイディアなど、歌伴に徹しながらも、
耳残りする場面をいくつもしっかりと残すところは、見事なディレクションといえます。
クレジットを見ると、各曲アレンジャーが異なっていて、それでこの統一感はスゴイな。
あれっと思ったのは、菊田俊介が作編曲をやっている曲があったこと。
アメリカのチタリン・サーキットで活躍するブルース・ギタリストと思っていたら、
こんな仕事もしてたんですねえ。
蕩けるようなブルージーなギター・ソロを披露してますよ。
すっかり気に入って、リー・ヤシャーのほかのアルバムも試聴してみましたが、
本作がいちばん抑制の利いた歌いぶりとなっているようです。
個人的には大判の写真集だけが余計でしたが、中年男性の夜のお友に最適です。
李婭莎 「一個人,唱情歌」 滾石 RD1972 (2013)