たま~にですけれど、無機的な音楽を聴きたくなることがあります。
幾何学的というか、アブストラクトな音列で満たされた演奏を欲するんですね。
あ、現代音楽の話じゃないですよ。ジャズの話です、はい。
それにはきわめて実用的な理由があって、書き物をする時、
情動を呼び覚まされるメロディだと、うっとうしいんですね。
それでも、なんらかの音は鳴らしていたいという時、
調性を感じさせる音程を避けた音の羅列が心地良く、仕事のジャマにもならないんです。
環境音楽じゃダメなの?と訊かれそうですけれど、
アンビエントなんかでも案外耳に引っかかるものがあって、
心地よい音が心地よくないんですよ。
そういう時の定盤になっているのが、スティーヴ・コールマンの07年ツァッディーク盤。
全16曲71分、すべて無伴奏アルト・サックス・ソロという、
コールマンのキャリアの中でも、もっとも異色といえるアルバムです。
変拍子ファンクのM-BASE路線のアルバムと違って、
話題すらのぼったことがないのは、いささか冷遇されすぎな感がありますけれど、
ぼくはコールマンの代表作と信じて疑っておりません。
サックスの無伴奏ソロというと、咆哮したり、もったいぶって吹いたりする
フリー・ジャズを連想しがちですけれど、
そんなギミックとは無縁の、律儀といえるほど丁寧な吹奏をしていて、
コールマン独自のサックスの語法で、淡々と演奏しているところがいいんです。
この「淡々と」というところがキモで、熱くブロウしまくるとか、
切れ味鋭くリズムにのるといった演奏でないからこそ、耳奪われる場面がなく、
気持ちよく聞き流せるんですね。
フリー・ジャズのように、音楽との対峙を人に求めるような演奏じゃなくて、
純音楽的というか、余計な精神性をまとわない演奏が、
ぼくにはとても好ましく聴けるのでした。
それにしても71分の長さで、一瞬たりとも耳なじむメロディが現れない無調ぶりは、
スゴイとしか言いようがないですね。
これもまた無調音楽、否、無調ジャズといえるんでしょうか。
Steve Coleman "INVISIBLE PATHS : FIRST SCATTERING" Tzadik TZ7621 (2007)