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狂気が生み出した美 エリス・レジーナ

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エアコンの効いた車内で聴く、ドライヴ・ミュージックの定盤。
車を運転しなくなってから、かれこれ10年以上、
すっかりごぶさたどころか、まったく聴かないままとなっていることに気づきました。
エリス・レジーナぎらいのぼくが、なぜかこれだけは愛聴した晩年作。
エリスのアルバムと意識せず、
ブラジリアン・フュージョンとして聴いていたというのが、その理由なんですけれどね。

なんてったって、アルバム冒頭と6曲目(当時はLP両面のそれぞれ1曲目)がスゴイ。
回転数間違っちゃったのかと思うほど、尋常ならざるハイ・スピードで
ベースとドラムス、ホーン・セクションがせかせかと疾走する、超高速サンバ。
セーザル・カマルゴ・マリアーノが弾くエレトリック・ピアノの響きが、
都会の高層ビルや高速道路を映し出し、土の匂いなどまったくしない、
アスファルトで埋め尽くされた、アーバン・テイストのサンバをかたどります。

当時最先端だったスタイリッシュなサウンドにノックアウトされ、
苦手なエリス・レジーナの声もあまり気にならず、
むしろギスギスとしたか細く神経質な歌声が、クールなサウンドと奇妙にマッチしていました。
しかし、それはどこか狂気めいた危うさを感じさせるもので、
それが何を意味するのか、当時はわかりませんでした。

ちょうどこの頃エリス・レジーナは来日し、まったく期待せずに観に行ったんですけれど、
いやぁ~、ヒドいもんでしたよ。
力みまくった歌いぶりは、まさにプリテンシャスの塊って感じで、うんざりしました。
この時は、ライヴ・アンダー・ザ・スカイ79のブラジル・ナイトという、
今でいう音楽フェスだったんですけど、
エルメート・パスコアールのステージでは、客が悪乗りして最悪でした。
野外の音楽フェスって、ロクな思い出がないんですよね。
音楽を聴きに来るんじゃなくて、騒ぎに来るだけのバカな客が多すぎます。
不愉快な思いをしたくないので、野外フェスはすっかり敬遠するようになっちゃったなあ。

このわずか2年半後、エリスは突然他界するわけですが、
死因がコカイン中毒に加え、アルコール中毒のせいだったと伝わってきて、
あのアルバムに感じられた狂気の理由が、ようやくわかりました。
痩せた声で、不安定なヴィブラートを付けて歌うボレーロなど、
気持ち悪さの極致でしたけれど、そんなエリスの情緒不安定な歌いぶりは、
病気がもたらしたものと考えれば、至極納得がいくというものです。
思えばライヴでの熱唱もまるで楽しそうでなく、
どこか癇癪をおこしているようにみえたのも、そういうことだったんでしょう。

こんこんと湧き出る生命力を体現したサンバから肉体感を奪い、
エレクトリックでマシナリーなビートに変貌させたジャジーなサウンドは、
深い闇を抱えた病的なヴォーカルと結合して、
妖しいほどにメロウな味わいを生み出しました。
狂喜が生み出した美を湛える、奇跡的な作品といえます。

[LP] Elis Regina "ESSA MULHAR" WEA BR36.113 (1979)

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