写真好きの人なら、ジャズ・ミュージシャンを撮った写真集といえば、
エルスケン、ウィリアム・クラクストン、ハーマン・レナードといった写真家が思い浮かぶはず。
日本人なら、大倉舜二、中平穂積、阿部克自の写真集が良く知られていますよね。
それでは、南ア・ジャズの写真集はどうかというと、知る人は少ないんじゃないでしょうか。
で、ちょっと話題に取り上げたくなったのが、21世紀に入って出版された2冊の写真集。
1冊目は、南アの黒人向け雑誌「ドラム」の写真で有名な、ジュルゲン・シャーデバーグの
“JAZZ, BLUES & SWING: SIX DECADES OF MUSIC IN SOUTH AFRICA” です。
31年にベルリンで生まれ、50年に南アへ移住したシャーデバーグは、
「ドラム」専属の写真家として、数々の名作をものにした人。
この写真集には、50年代南ア・ジャズ黄金時代を飾った
数々の音楽家や歌手がずらりと並んでいて、壮観です。
ぼくがジュルゲン・シャーデバーグを知ったのは、雑誌「ドラム」の名フォトを編纂した写真集
“THE FINEST PHOTOS FROM THE OLD DRUM” がきっかけでした。
激動の時代を切り取った写真には、圧倒的な説得力があり、スゴいとしか言えません。
鋭いドキュメンタリー性と、高い美意識を湛えた抒情性のある写真は、
濱谷浩の作風に通じるところがあって、すぐにファンとなったものです。
シャーデバーグは、50年代南ア・ジャズの黄金時代をもドキュメントしたわけですが、
女性歌手ドリー・ラテベの水着姿を撮った写真で
背徳法違反の罪に問われ、逮捕されてしまいます。
そして、59年にドラムを辞め、フリーの写真家となりますが、
64年には南アを去ることを余儀なくされ、ロンドンへ渡りました。
その後スペインへ移り住み、84年になってようやく南アへ帰還しています。
さて、もう1冊は、南ア・ジャズのレコード・コレクター、クリス・アルバーティンが、
イアン・ブルース・ハントリー撮影の写真とレコーディング記録を編纂した写真集です。
こちらは、ジュルゲン・シャーデバーグが南アを去った後の64~74年、
アパルトヘイトの激しい弾圧にさらされた南ア・ジャズ暗黒時代に撮影されています。
これまでほとんど情報がなかった時期の写真だけに、とても貴重なものです。
この当時、南ア・ジャズの主要な音楽家たちは、こぞって国外に亡命してしまい、
アパルトヘイト下で活動が厳しく制限されていた現地の様子は、
海外からはほとんどうかがい知ることができませんでした。
大物たちが去った後の苦難の時代のミュージシャンたちの様子とともに、
イアン・ブルース・ハントリーが録音したマスターテープのディスコグラフィーなど、
テキストも一級品の資料となっています。
正直、写真のクオリティは、ファイン・アートともいえる
ジュルゲン・シャーデバーグには見劣りしますが、
南ア・ジャズ・ファンには垂涎の写真集といえます。
[Book] Jurgen Schadeberg "JAZZ, BLUES & SWING: SIX DECADES OF MUSIC IN SOUTH AFRICA" David Philip (2007)
[Book] Jurgen Schadeberg "THE FINEST PHOTOS FROM THE OLD DRUM" Bailey's African Photo Archives (1987)
[Book] Chris Albertyn "KEEPING TIME 1964-1974 : THE PHOTOGRAPHS AND CAPE TOWN JAZZ RECORDINGS OF IAN BRUCE HUNTLEY" Chris Albertyn & Associates CC (2013)