はじめ聴いた時の印象が薄くて、
しばらく寝かせたままにしていた、ヴェトナムの新人女性歌手のデビュー作。
典型的な抒情歌謡なんですけど、すぐにピンとこなかったのは、
あまりにも暑すぎる真夏に聴いたせいだったのかな。
涼しくなってきたので、あらためて聴いてみれば、いやぁ、いいじゃないですか。
レー・クエンのレパートリーに通じる、古風でロマンティックな佳曲がいっぱい。
長調と短調を行ったり来たりする不思議なメロディの1曲目は、
60~70年代に活躍したトラン・クアン・ロックという作曲家によるもの。
トラン・クアン・ロックは長く忘れられていた作曲家だったそうで、
90年代に入ってから再評価されるようになったんだとか。
2曲目の“Một Mai Em Rời Xa” も、もしレー・クエンが歌ったら、
すごくドラマティックになりそうな悲恋の曲ですけれど、感情を抑えた風情が、
わが国では絶滅した清純派歌手の雰囲気そのもので、好ましいですね。
そしてアルバムのラストを飾るのは、
レー・クエンが10年作の“KHÚC TÌNH XƯA” で歌っていた“Buồn” ですよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-12-11
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-08-21
ヴェトナム中部ダナン出身のファン・フォン・アンは、
03年のコンテストで金賞を獲ってから本格的な歌手活動に入ったのだそうで、
このデビュー作を出すまで12年もかかったということは、
けっこう下積みが長かったんですね。
満を持したデビュー作は、全編スロー・バラードのアルバム。
繊細な歌い口で、ほのかな色気を感じさせながら
スムースに歌うファン・フォン・アンは、後味がとても爽やかです。
最初聴いた時、あまりにもスムースすぎて印象に残らなかったのも、
そのクセのなさゆえだったのかもしれません。
丁寧に歌うファン・フォン・アンの歌をバックアップするプロダクションもデリケイトで、
ストリングスを配しつつも、適度にヌケのいいサウンドが、
さらりとしつこくない歌の良さを引き立てています。
ファン・フォン・アンの歌のチャーミングな表情は、新妻のういういしさを思わせます。
Phạm Phương Anh "MỘT MAI ANH RỜI XA" Thăng Long no number (2015)