これが、まだ20代半ばの若者の作品とは。
デビュー作を前年に出したばかりという、
南アのジャズ・ピアニスト、ボカニ・ダイアーの11年作。
その重厚な作風は、年齢に見合わない老成を感じさせるもので、
これがまだ2作目というのだから、恐れ入ります。
ボカニ・ダイアーは86年1月21日生まれと、カイル・シェパードと並んで
南ア・ジャズ・シーン期待の若手の一人と目されている人です。カイルのひとつ年上ですね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-05-30
生まれが南アではなく、ボツワナのハボローネというのは、
父親がアパルトヘイト下の南アからボツワナに亡命していた間に
ボツワナ人女性と結婚して、生まれたからだったのでした。
そのお父さんというのが、ジョナス・グワングワやヒュー・マセケラとの共演歴を持つ、
白人サックス奏者のスティーヴ・ダイアーです。
先月オリヴァー・ムトゥクジの記事で触れた60歳記念ライヴで、
スティーヴ・ダイアーがゲスト参加していて、サックスとフルートを吹いていましたが、
ボカニはそのスティーヴの息子なのでした。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-10-17
そして本作では、俗に<スピリチュアル・ジャズ>と称されるサウンドに通じる、
ゴスペル色の濃い、オーセンティックなスタイルのジャズを演奏しています。
若い世代であるにもかかわらず、コンテンポラリー色はみじんもなく、
ブラックネスを強く打ち出したヘヴィーな感触は、
往年のマッコイ・タイナーを思わせる深みを感じさせ、ウナらされました。
もっとも近いスタイルでは、ベキ・ムセレクでしょうか。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-01-17
ボカニはこのあと、15年に“WORLD MUSIC” という
大胆なタイトルの3作目で新たな試みに挑戦していますが、
残念ながら、2作目を超える存在感を示すには至りませんでした。
これから飛躍が期待できる若き才能なので、今後に注目したいと思います。
Bokani Dyer "EMANCIPATE THE STORY" Dyertribe no number (2011)