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コンテンポラリー・エチオ・ジャズ・ギタリスト、デビュー! ギルム・ギザウ

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Girum Gizaw  Kelem.jpg

エチオ・ジャズのニュー・カマーが登場しました。
アディス・アベバのジャス・クラブで活動している
34歳のギタリスト、ギルム・ギザウです。

昨年6月にリリースされたデビュー作を聴いたんですが、
これがムラトゥ・アスタトゥケ譲りのエチオ・ジャズであるのと同時に、
コンテンポラリー・ジャズとして通用する
現代性も兼ね備えた作品となっているんですね。
エチオピア国内制作で、ムラトゥの孫世代から、
これほど本格的なジャズ作品が登場するのは、これが初でしょう。
歌謡中心のエチオピアでは、インスト作品じたいあまり作られないし、
かろうじてあるのは、カラオケふう「歌のない歌謡曲」式のアルバムぐらいですからね。

どういう人なんだろうと調べてみると、
エチオピア中部アセラの孤児院で育ったという人で、
6歳から教会で歌い始め、ギターを手にしたのは12歳のことだったそう。
高校卒業後、アディス・アベバの音楽学校で3年半ジャズを本格的に学び、
そこで出会ったマルウ・ケスキ=マエンパーというフィンランド人教師が弾く、
フィンガー・ピッキング・スタイルのギターに強い影響を受け、
2年間みっちり、そのスタイルを習得したんだそうです。

そんなフィンガー・ピッキング・スタイルを聴けるのが、
タイトル曲とラストのティジータで、
タイトル曲では、ギルムがアクースティック・ギターを爪弾く彼方で、
男性の語りや少年たちの合唱をコラージュふうにフィーチャーした、
映像的なトラックとなっています。
Youtubeにあがっているギルムのヴィデオを見ると、
演劇のパフォーマンスとの共演など、
ジャズの枠にとらわれない活動をしていることがうかがえます。

一方、エチオピアの伝統歌謡では、
独特の5音音階を駆使したジャズ・ギターらしいソロを聞かせていて、
マハムード・アハメッドの名唱で有名な
“Ere Mela Mela” では、流麗な速弾きも披露。
ソロを弾きながらユニゾンでスキャットする、
ジョージ・ベンソンばりのテクニックほか、
テクニカルなフレージングや独自のヴォイシングなど、
すでにその技巧は完成されていて、
このままインターナショナルなジャズ・シーンで通用する人ですよ。
ソロ演奏の“One Drop” でも、鮮やかなフィンガリングに耳をそばだてられますが、
エチオピアのグルーヴに溢れたリズム感も聞き逃せません。

ただ、全曲エチオ・ジャズと思いきや、
“Take Five” を取り上げているのにヤな予感が。
サッチャル・ジャズなんていう、最悪な前例がありますからねえ。
しかし、シタールでテーマのメロディを弾かせただけのサッチャル・ジャズと違い、
ギルムはテーマのメロディを崩し、
エチオピア訛りともいうべき歌わせ方で弾いていて、
通俗なキッチュに終わらせない非凡さが光ります。
う~ん、こういう解釈をきちんと取り入れているなら、
凡庸な選曲でも、文句は言いますまい。

つるんとしたサウンドの感触やスマートな仕上がりは、
イマドキのジャズが持つ共通項でしょうかね。
新世代らしい同時代感覚のあるジャズながら、
気がかりなのは、エチオピアの自主制作では誰にも知られず、埋もれかねません。
海外レーベルと契約して、ワールド・レヴェルで活躍してほしい、
コンテンポラリー・エチオ・ジャズの逸材です。

Girum Gizaw "KELEM (COLOR)" no label no number (2016)

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