キゾンバの面白いアルバムを紹介してほしいというリクエストに、
まっさきに思い浮かんだのが、フィリップ・ムケンガでした。
これも『ポップ・アフリカ800』に入れてあげられなかった痛恨作なんですけれど、
親しみやすいポップスに仕上がった、素晴らしいアルバムなんですよ。
アフリカンドやカセ・マディを手掛けたことで知られる名アレンジャー、
ボンカナ・マイガが音楽監督を務めた、94年のアルバムです。
キゾンバというのは、90年前後にアンゴラで流行したセンバとズークをミックスしたスタイル。
アンゴラばかりでなく、カーボ・ヴェルデ、ギネア=ビサウ、サントメ・プリンシペなど、
ポルトガル語圏アフリカで大流行しました。
センバのセンチメンタルなメロディーと、ズークの快活なリズムがミックスした、
アフリカン・ポップスになじみのない人にも広くアピールする音楽で、
ディープなアフリカ音楽ファンは、あまり関心を示さないジャンルかもしれません。
若い頃はビートルズやシャルル・アズナヴールのファンだったというのもうなずける、
メロディ・メイカーとして洗練されたセンスを持つフィリップ・ムケンガは、
ジャヴァンやフローラ・プリンなどのブラジル音楽に影響を受けたシンガー・ソングライター。
このアルバムに収録されているフィリップ作の“Minha Terra, Terra Minha” も、
ジャヴァンの曲といわれたら、素直に信じてしまいそうなほど、ジャヴァンの作風そっくりです。
本作はズーク色の強いアレンジで、
キゾンバらしいポップなサウンドをまとったアルバムに仕上げながら、
ブラジルのMPBに影響を受けた曲のほか、
かつてはアコーディオンとハーモニカで演奏されたレビータをモダンにアレンジした、
奴隷時代の物語を歌にした伝承曲などを聞かせます。
こうした「トラディショナル」とクレジットされたレパートリーが素晴らしく、
アンゴラ人好みの泣きのメロディをエレガントにアレンジした“Humbiumbi” など、
アンゴラのサウダージに溢れた、極上のメロウ・トラックに仕上がっていますよ。
女性好みともいえるこの一枚、MPBファンにもウケそうだし、
クラブでもカフェでもプレイできそうで、再評価してもいいアルバムなんじゃないでしょうか。
(だったら、『ポップ・アフリカ800』に載せとけよって話ですよね。申し訳ありません)
ただし、とっくに廃盤なので、これから見つけるのは難しいかもしれませんが、
ワールド・ミュージック・ブーム時代に輸入されて、よく売れ残ってたアルバムだったので、
中古で見つかれば500円以下で売ってそう。ワールドの見切り品なんかにあったりして。
見かけたら、即買いをオススメします。
Filipe Mukenga "KIANDA KI ANDA" Lusafrica 08680-2 (1994)