前回、20年以上も前のキゾンバの名作を取り上げましたけれど、
今聴いても古さを感じさせないのは、
パリでしっかりとプロデュースされた作品だったからで、
当時のアンゴラ国内でこれほどのプロダクションは、望むべくもありませんでした。
90年代にポルトガル盤でリリースされていたキゾンバのローカル・ポップは、
シンセをプリセットで鳴らす安直な使用や、稚拙な打ち込み使いなど、クオリティが低く、
いったい何枚のハズレ盤をつかまされたことか。もちろん全部処分しちゃいましたが。
そんなわけで、いつのまにかキゾンバをフォローする気も失せ、月日は流れていきました。
その後アンゴラのポップスといえば、リスボン郊外でアンゴラ移民が生み出した
アンダーグラウンドなクラブ・ミュージック、クドゥロが脚光を浴びたこともありましたね。
テクノ系のサウンドが大の苦手なぼくとしては、クドゥロの登場に、
正直な話、アンゴラのポップスはもうフォロー不要といった気分に陥りました。
ところが、年明けに70年代のアンゴラ音楽の復刻シリーズをまとめて入手した折、
最近のキゾンバもいくつかみつくろってオーダーしたところ、
プロダクションが見違えるほど向上していたのに、びっくり。
思えば、同じポルトガル語圏アフリカのカーボ・ヴェルデも、世紀が変わる前後あたりから、
アクースティックな音づくりがメインになって、ぐっとサウンドが向上したんだっけ。
いやあ、時代は変わったなあ。こういうサウンドが、聴きたかったんですよ~。
生音主体で、人力のドラムスが生み出すまろやかなリズムに、頬もゆるみます。
これまでアンゴラのポップスというと、男性シンガーが主で、
女性シンガーの影が薄かったんですけれど、
キュートな女性シンガーにも出会うことができました。
今回ご紹介するカリナ・サントスがそのひとり。
85年生まれで、06年にデビュー作をリリースし、12年の本作が2作目だそうです。
チャーミングな歌声も魅力ですが、注目はそのサウンド。
ひとことでいえば、キゾンバといって構わないと思いますが、
各曲ごとリズムやスタイルが異なり、バラエティ豊かな内容になっているんです。
センバにコンパのリズムをミックスして英語で歌う曲があるかと思えば、
キューバのサルサ・シンガーとデュエットした本格的なキューバン・サルサあり、
はたまたマラヴォワを思わせるヴァイオリン・セクションが伴奏につくキゾンバありと、
アレンジは実に多彩。
アコーディオンやカヴァキーニョを要所要所で効果的に使ってみたり、
ポルトガル・ギターをフィーチャーしたボレーロでは、
ゴージャスなストリング・アンサンブルも配され、
時間も予算もかけたプロダクションであることは明々白々。
90年代のキゾンバが、悪く言えば「できそこないのズーク」みたいなところがあったのに比べ、
進化した現在のキゾンバは、ビギン、コンパなどのフレンチ・カリブのリズムに、
サルサやメレンゲ、ルンバ・コンゴレーズを巧みにミックスしているのが特徴です。
1曲のなかで、センバとコンパとルンバ・コンゴレーズの要素が
ミクスチャーされているアレンジの進化は、
フレンチ・カリブのリズムの饗宴を聞かせるミジコペイにも通じるものを感じさせますね。
フレンチ・カリブ音楽ファンも狂喜することウケアイの、スウィートなキゾンバの傑作です。
Karina Santos "PURA ANGOLANA" Xicote Produções no number (2012)