おお、これはジャズ・ショーロじゃないですか。
今では誰も演奏することのなくなったジャズ・ショーロは、
その名からわかるとおり、北米ジャズに影響されたショーロです。
歴史は古く、30年代にスウィング・ジャズがブラジルに輸入された時代まで遡ります。
といっても、ジャズより歴史の古いショーロゆえ、
当初は、外国で流行しているという新しいインスト音楽を、
ほんのお遊び程度に取り入れたにとどまり、
その後のショーロの発展に大きな影響を与えることはありませんでした。
第二次世界大戦前後に、ラダメース・ニャターリやガロートたちが、
ショーロのモダン化を図るなかで、ジャズ・ショーロを演奏しましたが、
これも実験的な試みに終わり、
のちの音楽家たちに受け継がれることはありませんでした。
廃れてしまったショーロの一変種であるジャズ・ショーロですけれど、
何年か前にサックス奏者レオ・ガンデルマンが出した、
ジャズ・ショーロのアルバムがありましたね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-09-29
あれは、ショーロの歴史に精通したカヴァキーニョ奏者
エンリッキ・カゼスが仕掛けたアルバムでしたけれど、
本作はそうしたかつてのジャズ・ショーロに触発されたのではなく、
独自のアイディアで制作されたアルバムのようです。
サムエル・ポンペーオは、
サンパウロの交響楽団やビッグ・バンドで演奏してきたサックス奏者で、
MPBの世界でも、数多くの歌手の伴奏も務め、
現在は音楽学校で教鞭をとっているという人物。
ショーロやジャズのいずれかをプロパーとする音楽家ではないところが、
この企画を成功させた秘訣だったように思えますね。
サムエルはバリトン・サックス、ソプラノ・サックス、
バス・クラリネットを吹いていますが、ショーロ・マナーで吹奏していて、
一部のスロー曲をのぞき、ジャズ的な奏法やフレージングを慎重に避けています。
SP袋のジャケット・デザインや、
ノスタルジックなサウンドで始まるオープニングの演出含め、
ショーロとしてのアイデンティティをくっきりと表わしていますよ。
ガロートのショーロを改変したオリジナル曲を演奏していた、
ブラジルの新進ジャズ・ピアニスト、ヴィトール・ゴンサルヴィスは、
リズム・アレンジにくっきりとコンテンポラリー世代のジャズが刻印されていましたけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-03-22
サムエルの演奏からは、そうした現代的なジャズのセンスは感じられません。
では、ジャズ・ショーロの「ジャズ」の部分はどういうものかといえば、
60年代ジャズのモーダルなハーモニーを加えたまでの、いわばオーソドックスなもの。
ジャズがプログレッシヴなインスト音楽ならば、
ショーロは芸術性より娯楽性を優先させるインスト音楽であり、
そこがジャズ・ショーロのショーロたるゆえんです。
Samuel Pompeo Quinteto "QUE DESCAÍDA" P&MB Produções no number (2016)