世の中に「デラックス・エディション」はいろいろあれど、
01年にリリースされた、ボブ・マーリーの『キャッチ・ア・ファイア』の
デラックス・エディションくらい衝撃的だったのは、ほかにありませんでしたね。
イギリス・アイランドからリリースされた公式盤と、
ジャマイカ録音のオリジナル・ヴァージョンを並列させたものだったんですが、
ギター・ソロをオーヴァー・ダブしたり、回転数をあげてお化粧した公式盤を、
それこそ何百回とヘヴィー・ローテーションした者にとっては、
あの骨格のみで、力強くもみずみずしさを湛えたオリジナル・ヴァージョンに、
大げさでなく、腰が抜けそうなほどびっくりして、また感動したのでした。
オリジナル・ヴァージョンの素晴らしさに、あらためてマーリーの底力を知るとともに、
あのお化粧が、世界に進出するためには必要なものであったことも、
あらためて再確認できたのでした。
買っただけで棚の肥しになりがちな、他の「デラックス・エディション」とは違って、
あの2CDは、本当に愛聴したものです。驚愕のオリジナル・ヴァージョンだけでなく、
公式盤と続けて聴くことに妙味のある、極上のデラックス・エディションでした。
ボブ・マーリーのデラックス・エディションはいい! とまたも言えるのが、
今回出た『エクソダス』のリリース40周年記念エディションです。
公式盤のディスク1に、ジギー・マーリーの再編集による『エクソダス40』のディスク2、
アルバム発表時のライヴ音源(ほぼ初出)集のディスク3という内容なのですが、
再編集されたディスク2が、これまた目ウロコというか、大発見があったのです。
個人的な告白をすると、マーリーを初めて聴いたのが『キャッチ・ア・ファイア』なら、
これを最後にマーリーを聴かなくなった、
いわばマーリーとのお別れ盤が、『エクソダス』だったのですね。
ダークなA面に対して、ラヴ・ソングも並んだソフトなB面に大きな抵抗を感じ、
ラスタファリアンがポップ・スターにでもなる気なのかよと、
マーリーの変節を感じて、幻滅したのでした。
まあ、こちらも若くて、思慮が浅かっただけの話ではありますが、
そんなわけで、その後来日した時も、もう関心はないよと、
コンサートには足を運びませんでした。
さて、そんな狭量なぼくがマーリーとお別れした『エクソダス』。
A面は好きだったとはいえ、CD化した時にちょっと聴き直しただけで、
たぶんもう30年近く聴いてないんでありますが、
ジギー・マーリーが再構成したディスク2には、ちょっとびっくり。
当時もしこのヴァージョンで聴いていたら、「マーリーの変節」などとは思わなかったかも。
まず、「エクソダス」でスタートする曲順変更がいい。
しかも、やや冗長でもあったオリジナル・バージョンを、
2分20秒以上短くエディットしただけでなく、
マーリーの歌声がオリジナルより野性味を増しているのだから、驚かされます。
なんでもジギーは、当時の没テープから、未使用のヴォーカルや演奏の断片を取り出し、
ミックスし直す大変な編集作業を行ったとのことで、
オリジナルからあえて音を抜いて、ダブ的な効果を高めるなど、
慎重なミックスをしています。
海外リスナー受けをネラった装飾をことごとく削り取っただけでなく、
曲順も変更してオリジナルのA・B面の落差を埋め、
楽曲の持つ本質的な力を再創造したのは、素晴らしい仕事と言わざるを得ません。
もともと気に入っていたオリジナルのA面についても、
どこかレイドバックした印象があって、
やっぱりエッジが甘くなったよなと感じていたんですが、
今回の『エクソダス40』には、オリジナルにはなかった太いグルーヴが貫かれていて、
すっかり見直してしまいました。
Bob Marley & The Wailers "EXODUS (FORTIETH ANNIVERSARY EDITION)" Tuff Gong/Island 00602557546712