Quantcast
Channel: after you
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1333

人生の宿命を受け入れた歌声 サラ・タヴァレス

$
0
0
Sara Tavares  FITXADU.jpg

“XINTI” から8年。
新作リリースのニュースに、首を長くして待っておりました。

サラ・タヴァレスは、かつてぼくが溺愛した女性シンガー・ソングライター。
リスボン育ちのカーボ・ヴェルデ移民二世ならではの洗練された音楽性を備えた、
オーガニックなクレオール・ミュージックを聞かせる人です。

“BALANCÊ” と“XINTI” を、いったい何百回聴いたことか。
2つのアルバムに刻み込まれたサラのチャーミングな歌い口は、
かすかな息づかいさえ、ぼくの脳裏にくっきりと染みついて、
これって、ほぼ恋愛感情みたいなもんじゃないかとさえ思います。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-08-03

それにしても、なぜ8年もの長いブランクがあったんでしょう。
なんとサラは“XINTI” 発表後のツアーで脳腫瘍を発症して手術を受け、
一時は歌手生命を断念する深刻な事態にあったのだとか。
そんなことがあったとはツユ知らず、
無事復帰して新作を出すことができたのは、本当に、本当に良かったです。

で、待ちわびた新作なんですが、けだるい歌声が冒頭から流れてきて、ガクゼン。
暗いトーンが支配するその歌声は、まるで別人です。
かつてのコケティッシュな表情など、どこにも見当たりません。
わずか30の若さで、死をも覚悟せざるを得ない絶望を体験したことが、
サラの歌声をすっかり変えてしまったようです。

哀しみを宿して、苦みの加わった歌声に、正直戸惑いは隠せませんでしたけれど、
何度も聞き返すうちに、最初のショックも次第に和らいでいき、
サラの変わらぬ作風であるソダーデ溢れるセンチメントなメロディに、
避けられない宿命を静かに受け入れた者の諦念を感じ、はっとさせられました。

本作は、曲ごとにサラの音楽性に合ったゲストや共作者を
PALOP(ポルトガル語圏アフリカ)・コネクションから迎え、丁寧に制作されています。
サラのルーツであるカーボ・ヴェルデからは、ナンシー・ヴィエイラが参加し、
“Ginga” をサラと共作しています。
ギネア=ビサウからは、才人のマネーカス・コスタがギターとベースで参加、
“Coisas Bunitas” ではスキャットも披露しています。

そしてアンゴラからは、大物シンガー・ソングライターのパウロ・フローレスが参加。
本アルバムの中では異色のアフロビートにアレンジした“Fitxadu” で
サラと詞を共作し、一緒に歌っています。
このほかアンゴラ勢では、ぼくが注目しているトッティ・サメドを起用。
トッティ・サメドは、配信リリースのみのデビューEPを出したばかりの新人で、
“Brincar De Casamento” をサラと共作し、一緒に歌っています。
ここには収録されていませんが、トッティ・サメドのギター伴奏で、
ボブ・マーリーの“Waiting In Vain” を一緒に歌っている動画が、
Youtube に上がっていますよ。

エレクトロやプログラミングを加えつつも、
生演奏を生かしたデリケイトなプロダクションが、
とてもいいディレクションとなっているし、
フナナーなどカーボ・ヴェルデのリズムを、
これまでになくさりげなく取り入れているところも、とても好感が持てるアルバムです。

死に直面し、絶望の淵に立たされたサラが、
その歌声に憂いの表情をまとうようになったのも、
人生を深く捉え直し、内面を成長させた結果なのだと、今は前向きに受け取っています。

【蛇足的追記】
本作は、ジュエル・ケース入りの通常版と、
“Coisas Bunitas” のリミックスがボーナスで追加された、紙ジャケ仕様限定版があります。
せっかくなので、限定版をオーダーしたんですけれども、
中身は通常版ディスクの紙ジャケ盤が届き、ただいま業者に問い合わせ中(泣)。

Sara Tavares "FITXADU" Sony Music Entertainment 88985490712 (2017)

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1333

Trending Articles