3年ぶりに届いたジュリー・ファウリスの新作。
スコットランドの女性ガーリック・シンガーで、ぼくのいっちばん好きな人。
i の母音を発声する時のチャーミングさは、この人を凌ぐ女性歌手はいません。
ジュリーの声を聴いているだけで、幸せになれるんですよ。
ほんとにこればっかりは、相性ですよねえ。
前作“GACH SGEUL - EVERY STORY” が出たさいに、
「大人への階段を上った新作」という記事を書きましたけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-04-03
あのあと、ジュリーは二人の娘がいるお母さんだということを知りました。
えぇ~、それじゃあ、「大人への階段を上った」もなにもあったもんじゃないなあ。
ジュリーが結婚していたことすら知らなかったので、びっくりだったんですが、
ご主人はアイリッシュの人気バンド、ダヌーのエイモン・ドアリーだそう。
ジュリーのアルバムにいつもブズーキ奏者として参加していた音楽パートナーで、
07年に結婚、10年に長女を、12年に次女を出産していたとのこと。
いやあ、知りませんでした。
デビューまもなくの、十代の歌声としか思えない若々しい印象があまりにも強くって、
いつまでも二十代みたいなイメージが抜けなかったんですけれど、
実は今年ですでに三十代終わりの歳なんですね。
このみずみずしい声を聴いていると、そんな感じがまったくしません。
今作も、ガーリック・シンガーとして着実な歩みを進めたことを実感させる充実作で、
軽やかなダンス・チューンから、メランコリックなラメントや清涼なバラッドまで、
どんなレパートリーでも、それぞれにふさわしい表現と奥行きを持って歌っています。
初めて取り上げた英語曲、アン・ブリッグスとアーチー・フィッシャーの2曲が
話題を呼びそうですけれど、ぼくにとって一番魅力なのは、
愛らしいリルティングを聞かせてくれる“Thèid Mi Do Loch Àlainn”。
リルティングは、ジュリーの生まれ故郷、
北ユーイスト島でも盛んなアウター・ヘブリディーズ特産の毛織物ツイードを、
叩いたりひっぱたりする作業で歌われる労働歌のウォウキング・ソングでよく使われますね。
一種のマウス・ミュージックのようなものですけれど、リルティングが好きなもので、
ウォウキング・ソングも大好物なんであります。
ウォウキング・ソングは、カパーケリーが現代化して再生し、
カパーケリー登場以降、ハイランドの重要なレパートリーとなりました。
音符が弾むジュリーの声で歌われるリルティングは格別。
1音1音エッジが立ったアーティキュレーション、スタッカートの利いた発声は、
ジュリーの真骨頂です。
Julie Fowlis "ALTERUM" Machair MACH008 (2017)