シンド・ガライのリイシュー! こりゃ、事件だ。
19世紀末から20世紀にかけて、600曲ものカンシオーンを残した、
キューバ伝説のトロバドールです。
のちのソンやボレーロへ与えた影響も計り知れず、
101歳まで生き、キューバの民衆からこよなく愛された音楽家でした。
いまなお多くの歌手がシンド・ガライの曲を歌い継いでいるというのに、
ご本人の録音がまったく復刻されておらず、
ぼくも“Cualquier Flor” の1曲しか、聴いたことがありません。
2017年がシンド・ガライの生誕150周年にあたるということで、
記念作としてエグレム社から復刻された本作。
喜び勇んで飛びついたんですが、SP時代の復刻は2曲のみで、
ほかに晩年のプライヴェート録音が2曲収録、本人の演唱は4曲だけとなっています。
シンド・ガライのSP復刻集とばかり思ったので、当てが外れてしまいましたけど、
没後の70年代に制作されたトリビュート・アルバムから、
シンドの息子のグアリオネクス・ガライや、アドリアーノ・ロドリーゲス、
ドミニカ・ベルヘスがカヴァーしたシンドの曲が収録されています。
こうして聴いてみると、あらためてガライの曲の豊かな音楽性に感じ入ります。
その音楽の雑食ぶりは、いわゆる吟遊詩人のギター弾きという、
ぼんやりとしたトロバドールのイメージだけでは、到底くくれないものがあります。
SP録音を聴いてみれば、シンドの高度なギター・テクニックにまず驚かされるし、
歌の方も、高音部を担当する息子と低音部を担当するシンドの、
ハーモニーと呼ぶには自由すぎるというか、相手に合わせることに囚われない
その闊達ぶりに、キューバの美学を感じます。
「素朴」などという形容からはあまりに遠い、高度に洗練された音楽です。
19世紀末にトロバドールたちが歌っていた曲は、
芝居などの芸能にも、強く結び付いていたんじゃないでしょうか。
後年となる26年には、リタ・モンタネールと一緒に活動し、
パリ公演もしているほどですからね。
そんな痕跡を、男女二重唱のドゥオ・カブリサス=ファルチのハーモニーにも感じます。
白人系カンシオーンの典型といえる演唱でありつつ、
ソンに橋渡しされるリズム感覚を聴き取れる曲もありますよ。
マノロ・ムレットが歌う“La Baracoesa” にいたっては、
フィーリンそのものじゃないですか。
19世紀末のトロバドールたちが歌っていたカンシオーンは、
のちのソンやボレーロ、フィーリンなどに発展していく、
さまざまな養分をたたえていたんですね。
Sindo Garay, Adriano Rodeiguez, Dominica Vergas, Dúo Cabrisas-Farach, Manolo Mulet and others
"SINDO GARAY - DE LA TROVA UN CANTAR…" Egrem CD1517