昨年暮れのメーテッタースウェの新作の記事の最後に、
「カッティング・エッジなんて価値観とは、正反対のポップスがここには存在する」
と書きましたけれど、それじゃあ、ミャンマーのカッティング・エッジといえば、
それは間違いなく、ターソーでしょうね。
80年ヤンゴン生まれという、ヒップホップ世代ど真ん中のターソー。
軍事政権下のミャンマーで、アンダーグラウンドなヒップホップ・ユニットを結成して
活動していたという経歴も、世界津々浦々に存在する
ヒップホップかぶれにありがちな話で、それ自体はどうってことありません。
面白いのは、それからあとの話で、ゼロ年代初めにロンドンへ留学し、
そこでドラムンベースなどのアンダーグラウンド・シーンを体験し、
同時に大英図書館でミャンマーの伝統音楽と出会って
衝撃を受けたというんですね。
まあ、ヒップホップにカブれる若者だから、
自国の伝統音楽に無知なのも当然なんだけど、
ロンドンまで留学しなけりゃ、自国の文化と出会えないっていう距離感、
なんとかならないのかねえ。
若者と伝統音楽の断絶ぶりは、どの国も深刻だよなあ。
日本の若者が雅楽や三味線音楽を知らないのだって、もう半世紀以上になるし。
で、大英図書館で聴いた伝統音楽が、
まるでエレクトロ・ハウスのように聞こえたっていうんだから、傑作です。
そして帰国後、ミャンマーの伝統音楽とエレクトロニック・ミュージックを融合した音楽を
ターソーは試みるようになるんですが、これがブットビの面白さで、
ぼくもYoutubeで初めて観て、なんじゃあ、こりゃあと、大声をあげてしまいました。
そこでは、伝統衣装をまとった男女複数のダンサーたちが、
伝統音楽のメロディをヒップホップのリズムにのせたトラックで踊り、
ステージの中央では、ターソーがラップをしながら、アジりまくっているんです。
その間、ステージ脇からは、観客に向けて何本ものホースで放水されて、
びしょ濡れになった観客たちが熱狂して踊りまくるという、
ダジャン(水かけ祭り)さながらのヤンゴン・レイヴが繰り広げられていたのでした。
別のヴィデオでは、大勢のきらびやかな伝統衣装のダンサーたちが舞い、
その中央で、黒のスーツという地味な姿のターソーがラップするというステージ。
バックでは生のサイン・ワイン楽団とDJがプレイしていて、
見事にショー化された演芸の世界。そんなスペクタクル・ショウに、
若い観客が熱狂しているんです。
この二つのヴィデオを観て、とんでもないことが起こっているという予感はしましたが、
その後手に入れたターソーのCDは、残念ながら、
ライヴのエネルギーの100分の1も感じられなくて、がっくり。
う~ん、あの熱狂と猥雑を、なんとかパッケージできないものかと願ってたんですが、
ついにやりましたね。今回入手した14年作は、
映像から受けた衝撃を追体験できる快作なのでした。
冒頭M1・2の2部構成のアルバム・タイトル・トラックは、
サイン・ワインとエレクトロをがっちり融合させたアッパーなナンバー。
江南スタイルも取り入れ、フロアの熱狂を誘うこと間違いなしでしょう。
アルバム全編で、サイン・ワイン、フネー(チャルメラ)、ゴング、大太鼓など
伝統楽器の響きばかりでなく、ミャンマーの伝統的なメロディも散りばめ、
四つ打ちのエレクトロ・ビートにのせた手腕が鮮やかです。
童謡みたいなメロディのM8“Thu” など、
ハードコアに傾かない親しみのあるポップ・センスがいいなあ。
バングラ・ビートあたりにも通じる芸能感覚が、ツボです。
このあとの15年作も聴いてみたいっ!
Thxa Soe "YAW THA MA PAUNG CHOTE" no label no number (2014)