ヴィエンチャンの満月の夜。
どこからともなく聞こえてくるケーンの響きに吸い寄せられ、
音の主を探し歩いていくと、寺院の境内の脇でケーンを吹く男がいます。
身じろぎもせずに吹くかと思えば、
時にゆったりと身体を揺らしながら、
息継ぎもなしに、1曲5~6分に及ぶ長い曲を吹き続けます。
う~む、これがいわゆる循環奏法ですか。
一定の音量を保ったまま吹き続ける、その精度の高さに、
この楽器の達人だということは、シロウトの耳でもすぐにわかりますよ。
演奏にじっと耳を傾けていると、
和音の中で、メロディとドローンが同時並行で鳴っていることに気付きます。
細かい8分音符のパッセージでメロディが奏でられる裏で、ずっと持続するドローン音。
ふっとドローンが消えると、メロディが浮き立って聞こえたり、
メロディが止まって、コードがリズミックで鳴らされたりと、
曲の中でさまざまに変化するので、一瞬たりとも聴き逃せませんね。
リズムがスイッチする場面では、ピッチカートとレガートを巧みに使い分けています。
モーラムのような語りものの伴奏となるようなパートがある一方、
反復フレーズをひたすら繰り返しながら、
グルーヴを強調するダンス・パートがあったりと、変化のつけ方が鮮やか。
たった1台のケーンで、これほど豊かな演奏ができるんですねえ。
ケーンと同じフリー・リードの和楽器の笙では、11種類の和音(合竹)が出せますけれど、
笙の祖先のケーンは何種類の和音が出せるんだろう。
聴く前は、ケーンの完全ソロ演奏なんて、
単調で退屈するんじゃないかとも思ったんですが、とんでもありませんでした。
ラオスのケーン奏者(名前のカナ読みは不確かです)のソロ・アルバムですが、
これぞヴィルトゥオーゾというべき名人芸に引き込まれる傑作です。
Khauhog Phachag "DIAOKHEEN SUDSANEEN" TS no number