カヤーンを入手したサイトのカタログには、普段なかなか聞くチャンスのない
アラブのオルタナ系アーティストが並んでいて、興味をそそられました。
タミル・アブ・ガザラという人のアルバムがいくつもあるので調べてみたところ、
86年亡命パレスチナ人の両親のもとカイロに生まれ、
98年にパレスチナへ戻り、ラマラのエドワード・サイード音楽院で
ウードとブズーキと音楽理論を学んだ音楽家とのこと。
01年にデビュー・カセットを出したあと、自分たちのようなパレスチナ音楽家を
支援するインキュベーターとなるべく eka3 を立ち上げ、
レコード会社(Mostakell)、芸能事務所(Almoharek)、
著作権管理事務所(Awyav)を設立した起業家でもあります。
今回ぼくが接触したのは、eka3 傘下のレコード会社のサイトだったんですね。
08年作は、タミルのウードとブズーキに、ヴァイオリン、チェロが絡み、
曲によりピアノ、ギター、ベース、ドラムス、エレクトロニクスが加わるという編成。
ヴォーカルに、ラビア・ジュブランという女性歌手をフィーチャーしています。
転調やリズム・チェンジを多用して、場面を急展開させる演劇的な曲が多く、
プログレッシヴ・ロック的なオルタナティヴ・アラビックといったところでしょうか。
16年作も08年作とほぼ同じ内容で、こちらはタミルがヴォーカルをとっています。
デビュー作でもやっていた、「ピンク・パンサーのテーマ」が引用される
“Takhabot” を再演していました。
正直ぼくの好みとは、やや違う音楽ではあるんですけれど、
こういったサウンドを聴くのは初めてだったので、とても刺激的でした。
いろいろ聴いてみた中で、一番面白かったのが、
タミルがエジプト人女性シンガー・ソングライターのマリアム・サレーと、
マルチ奏者でビートメイカーのモーリス・ルカと組んだ17年の最新作。
過度に作り込んだ演劇的な曲がなくなったかわりに、
一曲一曲それぞれが異なるムードを持った楽曲が集まり、
ユニークなオルタナティヴなアラビック・サウンドが楽しめます。
ちなみに、今作に参加している女性シンガー、
マリアム・サレーのデビュー作を聞くと、
まるでサイケ・ロックといった趣で、
トルコのアナドル・ロックが好きなファンなら喜びそう。
アラブの、しかもパレスチナのオルタナという、
シャバービーのようなアラブ歌謡とはまったく異にする音楽で、
貴重な体験ができました。
Tamer Abu Ghazaleh "MIR'AH" eka3 no number (2008)
Tamer Abu Ghazaleh "THULTH" Mostakell no number (2016)
Maryam Saleh, Maurice Louca, Tamer Abu Ghazaleh "LEKHFA" Mostakell no number (2017)
Maryam Saleh "MESH BAGHANNY" Mostakell no number (2012)