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宝探しゲームのアフリカン・ポップス ダイアモンド・プラトゥナズム

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アフリカン・ポップスの魅力の座標軸が、移り変わりつつあるのかもしれない。
タンザニア、ボンゴ・フレイヴァの新人、
ダイアモンド・プラトゥナズムのデビュー作を聴いて、
鈍感なわが脳ミソも、その地殻変動にようやく気付きはじめました。

ボンゴ・フレイヴァは、タンザニアで生まれた、
アメリカのR&Bやヒップホップの影響を受けた音楽。
90年代から流行するようになりましたが、これまでここで紹介したことはありません。
南アのバブルガムやガーナのヒップライフ同様、
アフリカのどの国にもある「洋楽かぶれ」のジャンルで、
チープなプロダクションは、世界標準のクオリティからほど遠いものでした。

これまでこうした音楽は、所詮欧米のモノマネにすぎず、
B級C級の作品しか生み出せないという時代が、長く続いてきましたが、
ようやくそれが、過去のものとなりつつあるようです。
その大きな要因のひとつは、
プロダクションのクオリティが欧米と遜色なくなったことにありますが、
そうしたテクニカルな問題以上に、
文化のグローバル化によって、アフリカの音楽環境が質的にも構造的にも、
大きく変化したことによるものと思われます。

かつてのアフリカン・ポップスは、欧米からの影響を受けながらも、
それらの音楽を咀嚼したうえで、アフリカのオリジナルな表現として
作り変えてしまうところに、醍醐味がありました。
アフロビートやエチオピアン・ポップスが、まさにその良きサンプルといえます。

さらに歴史をさかのぼれば、欧米の音楽以前にラテン音楽やアラブ音楽など、
さまざまな外来音楽との出会いによって、
ルンバ・コンゴレーズやハイライフやターラブが生まれたように、
アフリカン・ポップスは、文化往来によるミクスチャーが起こした化学反応の賜物であり、
文化混淆の産物でありました。

文化混淆が生み出す魅力は、アフリカ独自の民俗性の発揮にあり、
独自性が発揮されない欧米亜流の音楽に価値はないというこれまでの常識は、
2010年代半ばのナイジャ・ポップによって、すっかり塗り替えられてしまいました。
マーケティングにたけたイギリスのDJたちが、
さっそくこうした音楽を「アフロビーツ」と名付けてラベリングしていますが、
ジャンル名はともかく、現在のナイジャ・ポップや、南アのクワイトやゴム、
そして今回のタンザニアのボンゴ・フレイヴァには、
欧米の音楽と同一線上で語れる共通の資質が感じられます。

それは、R&Bやグライム、トラップなどへの音楽的共感が、
ヒップホップやクラブ・カルチャーという同世代文化のなかに、
しっかりと根付いていることです。
アフリカのデジタル世代の若者にとって、すでに欧米のカルチャーは憧れではなく、
カジュアルなライフスタイルとして、身近なものとして定着していることが、
そうした音楽から強烈に印象づけられます。

記号的なアフリカ性を必要としない同時代音楽へのアプローチは、
欧米の音楽性やテクノロジーのスキルを身に付けることによって、
欧米と遜色ないアウトプットを生み出すとともに、
従来のアフリカン・ポップスのような民俗性を強調せずして、
アフリカ性をにじみ出すようなニュアンスの変化をもたらしています。

いっさいアフリカの伝統楽器を使わず、
アフリカらしさなど一聴皆無に思えるサウンドにも、
アフリカの人々にとってみれば、「これがわれわれのオリジナリテイだ」と、
アフリカ性を具体的に指摘できる痕跡が、
メロディ、節回し、リズム、グルーヴなどに、くっきりと刻印されているのでした。

さて、それで、ダイアモンド・プラトゥナズムくんですよ。
89年、ダル・エス・サラームの下町タンダーレの貧しい家に生まれ、
10年あたりからさまざまな音楽賞を獲得して、快進撃を続ける新人スター歌手。
今年3月に本デビュー作をケニヤでリリースすると、東アフリカ中の話題をさらい、
南アで初めてCDリリースされるタンザニアのアーティストという栄誉を飾りました。
ちなみにぼくが入手したのも、南ア盤です。

全20曲、収録時間76分という長さを、最後まで飽きさせずに聞かせるんだから、
すごい力量です。シンガーとしての魅力ばかりでなく、他人との共作を含めすべて自作、
プロデュースも自身がやっているのだから、たいへんなものです。

ゲストも多彩で、アメリカからはニーヨ、オマリオン、ダヴィド、
ラッパーのリック・ロス、レゲエのモーガン・ヘリテイジが、
ナイジェリアからはティワ・サヴェイジ、P・スクエアが、
ジンバブウェからはジャー・プレイザーが、
同郷のタンザニアからは、ヴァネッサ・ムディーと
ラッパーのレイ・ヴァニーが参加しています。
さらに、異色なゲストに、イスラエルのヒップホップ・ヴァイオリニスト、
ミリ・ベン=アリまでもが参加(!)。

いわゆるアフリカぽい音など、ここにはまったく登場しません。
それでも、6曲目の“Kosa Langu” のイントロでミリ・ベン=アリが弾く
ヴァイオリン・ソロは、ターラブを思わせます。メロディもアラブぽいので、
なおさらそのニュアンスを感じるわけなんですが、
それはぼくのうがった聞き方ではないはず。
ダイアモンドくんの本名は、ナシーブ・アブドゥル・ジュマ。
その名からわかるとおり、ムスリムです。
ターラブが彼の素地にあっても、まったく不思議じゃないでしょう。

見事にアカ抜けしたイマドキのアフロ・ポップの魅力は、
グローバル・マナーな音楽の中に潜んだアフリカ性を見出す、
宝探しゲームのようにも思えてきます。

Diamond Platnumz "A BOY FROM TANDALE" WCB/Universal CDRBL938 (2018)

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