14年のマイ・ベスト・アルバムにも選んだ、
トニ・ブラクストンとベイビーフェイスのデュエット・アルバムは、
「壮絶」の一語に尽きました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-03-30
“Sweat” 終盤のフェイクの応酬は、もはや歌ではなく、セックスそのものだったし、
相手を傷付けながら謝り合う“Hurt You” は、
やるせない怒りに満ちたリリックが、ぐさぐさと胸に突き刺さり、
聴き続けるのがシンドくなって、何度途中でストップ・ボタンを押したことか。
これほど愛憎が複雑に入り混じった歌ばかり詰めこんだアルバムも稀なら、
トニ・ブラクストンの鬼気迫る歌いぶりは、圧巻の一語に尽きました。
ジャケットの「壁ドン」が、日本と男女逆の構図なのがアメリカらしいなんて、
聴く前は軽く考えていましたけれど、
あれは、トニの波乱に満ちた十年間の壮絶なドラマを表していたんですね。
あれから4年。
まもなく五十を迎えようとする、トニの8年ぶりとなるアルバムが届きました。
自己破産に難病と、次々と降りかかった災厄を乗り越えたトニの歌唱には、
かつてない激情がほとばしり、血しぶきが飛ぶかのような歌いぶりを聞かせます。
全8曲ミッドもしくはスロー、収録時間わずか30分強という短さ。
だというのに、この充足感はどうですか。
物足りなさをおぼえるどころか、
聴き終えた頃には、苦しくて息が上がりそうになります。
1曲1曲に込められた歌の熱量が、とにかくハンパない。
みずからシャウトなど、けっしてしないのに、
耐えに耐えた苦しみが、わずかにこぼれてしまうといった歌いぶりに、
かえって痛みの強さや悲しみの深さが伝わってきて、
聴く者の胸をえぐります。
ミッシー・エリオットばりのジャケットとタイトルは、
ジェットコースターのような人生を駆け抜けたトニの開き直りなのか、
もう何も怖れないトニの強さが伝わってくるようじゃないですか。
Toni Braxton "SEX & CIGARETTES" Def Jam Recordings B0027957-02 (2018)