ノルデスチからもう1枚新作が届きました。
シランダのメストリというので、またも知られざるヴェテランの古老かと思いきや、
めちゃめちゃ若い声に、青臭さいっぱいの歌いぶりに、腰が砕けました。
あわてて、ジャケットをよくよく見れば、まだ若そうな顔立ち。
聞けば、まだ22歳の若者だというのだから、
これで「メストリ」名乗るなんざ、おこがましいんじゃないの。
とはいえ、ブラス・バンドとパーカッション隊にのせて、
オーセンティックなシランダを歌っているんだから、本格派です。
なんでも8歳から両親の影響で歌い始め、
12歳でマラカトゥのバッキ・ソルトのグループの一員に加わり、
13歳からは武者修行に出て本格的にマラカトゥを学び、
メストリの称号を得たというのだから、ダテじゃないわけですね。失礼しました。
19歳でプロ・デビューした時には、「マラカトゥのネイマール」の異名が付いたほどで、
すでに本作は3作目だそうです。齢は若いですけど、実力者なんですね。
シランダといえば、輪になって男女が踊るノルデスチの有名なダンス音楽ですけれど、
全編でマラカトゥに通じる哀愁味のあるメロディが溢れ、すごくいい感じ。
胸の奥にしまいこんだ切なさを振り払うように、
涙を汗に変えて踊る、北東部人気質を強烈に感じさせます。
ユニークなのは、コーラスが不在で、主役のミゲル君がずっと歌っていること。
コーラスとのコール・アンド・レスポンスがないせいか、
サウンドには華やかさがなく、シンプルな音づくりとなっています。
わざとスキマを多くして、スペースを作っている狙いを感じますね。
ミゲル君の歌に応答するようにホーン・セクションのラインが鳴り響くので、
いっそう<泣き>のメロディが、くっきりと浮かび上がりますよ。
面白いのは、カクシ味のように使われている2台のエレクトリック・ギターの絡み。
粘りのある太いリズム・ギターの裏で、か細い音色でリフを弾くギターが、
なんとも情けない音を出しているところは、ニクい演出ですねえ。
ぺなぺなしたミュート音を使ったりして、とても面白い効果を上げています。
タイトル曲は、シランダではなくバッキ・ソルトで、これがまたすごい本格的。
いったいプロデューサーは誰かと思いきや、やっぱりシバ。う~ん、さすがですね。
シバといえば、メストリ・アンブロージオの解散後、
故郷ナザレー・ダ・マタの先達を迎えてソロ・アルバムを制作し、
ディープなマラカトゥ・フラルとバッキ・ソルトを聞かせてくれましたよね。
あの名作2作は、今も燦然と輝いていますよ。
ノルデスチ内陸部の伝統に奥深く分け入りながら、
現代性をしっかりと組み込んでいく手腕は、シバなればこそ。
ぺなぺなギターを弾いているのも、どうやらシバのようですよ。
Mestre Anderson Miguel "SONOROSA" EAEO EAEOCD005i (2018)
Siba "FULORESTA DO SAMBA" no label no number (2002)
Siba & Barachinha "NO BAQUE SOLTO SOMENTE" Terreiro TDCD054 (2003)