「その他」が好き。
こればっかりは、性分なんでしょうねえ。
世の流行やメインストリームに反応しないハグレ者ゆえ、
人が目もくれないところを、熱心に探し回る人生を送ってきたんであります。
耳慣れた音楽より、未知の音楽を求めては、
「その他」コーナーに放り込まれた、分類不可能や評価の定まらないレコードを漁り、
聞いたことのない楽器があれば、その音色を知りたくて世界各地の民俗音楽を聴き、
ジャズの専門店に足を運んでは、「その他楽器」のコーナーで、
念入りにレコードを探してきたもんです。
そうしてジャズの場合、ドロシー・アシュビーのハープ、
トゥーツ・シールマンスのハーモニカ、マイケル・ウルバニアックのヴァイオリン、
オセロ・モリノーのスティール・ドラム、
ハワード・ジョンソンのチューバと出会ってきました。
さらには、ユーフォニウム、フレンチ・ホルン、バスーン、バグパイプ、ほら貝なんて、
「その他楽器」上級者(?)向きのプレイヤーも知りましたけれど、
バス・クラリネットはエリック・ドルフィーという大物がいたので、
それほど「その他」感はなかったかな。
とはいえ、ブラジルのショーロでバス・クラリネットというのは、初耳です。
クラリネットならば、ルイス・アメリカーノに始まり、
カシンビーニョ、アベル・フェレイラ、パウロ・モウラ、
パウロ・セルジオ・サントスという歴代の名手を、
大勢輩出してきたショーロですけれど、
バス・クラリネットを吹く人というのは、記憶にありません。
ブラジルではクラロンと呼ぶことも、今回初めて知りましたが、
本作の主役セルジオ・アルバッシは、
ブラジル南部パラナ州の州都クリチーバの音楽家。
文化都市として有名なこの地の、
クリチーバ吹奏楽オーケストラの音楽監督も務めていて、
本作が2作目とのこと。
セルジオのクラロンのほかは、7弦ギター、ギター、バンドリン、
パーカッションという典型的なレジオナル編成で、
レパートリーはショーロの古典曲がずらり並んでいます。
耳馴染みのあるメロディをバス・クラリネットならぬクラロンで聴けるので、
この楽器の響きをじっくりと味わうことができますね。
吹奏楽オーケストラを率いる人だけに、
楽器の鳴らし方はジャズ・ミュージシャンとは違って、
倍音の少ない、芯のあるクリアな音色を聞かせます。
なめらかなパッセージや軽やかなタンギングは、高度なテクニックに裏打ちされていて、
木管楽器が持つ深みのある、優美な音色を奏でます。
アルバムのハイライトは、クラリネット奏者ナイロール・プロヴェッタをゲストに招き、
デュオ演奏したアベル・フェレイラの名曲‘Chorando Baixinho’。
クラロンとクラリネットの音色の違いが際立つ、聴きものの演奏となっているんですが、
こうして聴くと、バス・クラリネットって、けっこう音域広いんですねえ。
この楽器が持つ豊かな表現力を教えられた思いがする1枚です。
Sérgio Albach "CLARONE NO CHORO" Tratore SA01CD (2018)