「これって、ジャズなの?」
そう問いかけずにはおれなくなるような作品が、
次から次に飛び出すようになって、がぜんジャズ周辺が面白くなってきました。
この<ジャズ周辺>としか呼べない現象は、
一ジャンルとしてラベリングされたり、固定化されるのを拒むかのように、
アメーバのようにあらゆるジャンルに触手を伸ばし、呑みこんでいくイキオイがあります。
この現象は、ジャンルが溶解することに面白味があるんだから、
新たなネーミングを付けて、小さなワクに押し込めるようなことはしないで、
このままミュージック・シーンをかき回し続けていってほしいですね。
インプロヴィゼーションよりもサウンドをデザインして、ポップスにも寄っていくし、
インストゥルメンタル音楽というアイデンティティすら、関係ねぇといわんばかりの、
ヴォーカリストをフィーチャーしまくり、歌ものを取り込むそのアティチュード。
ヒップホップのヨレたりズレたりするビートを生演奏したり、
リズムを細かく割ったりポリリズムを組み合わせる、
新しいグルーヴをクリエイトする一方、
クラシックや現代音楽に寄せていく志向もあって、
ラージ・アンサンブルと呼ばれる現代的なオーケストレーションを提示するのも、
新しい傾向のひとつです。
アカデミックなジャズ表現が、ヒップホップやオルタナ・ロックの感性とシンクロしたり、
クラシックのテクニックを獲得したり、
世界各地のルーツ・ミュージックの遺産を掘り下げたりと、
さまざまな展開を見せながら、名前の付いていない音楽が生み出されていくのを
目撃できるなんて、ワクワクしますよね。
なんだかよくわかんないけれど、魅力的な音楽が次々登場するなんて、
サイコーに刺激的ですよ。
そんなことをあらためて痛感させられたのが、
西海岸で注目を集める若きピアニストでビートメイカーの、
キーファー・ジョン・シャックルフォードのセカンドでした。
キーファーは、去年テラス・マーティンと来日したポーリーシーズのメンバーのうち、
ゆいいつ非アフリカ系として参加していたキーボーディストですね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-10-02
オープニングから、重心の低いビートに映える、
くぐもった音色のノスタルジックなピアノの響きのトリコとなりました。
白日夢のような、妖しくもメロウなサウンドを奏でるエレピの音色にも酔わされます。
ヒップホップのビートメイキングが多彩で、
こればっかりはヒップホップで育った世代ならではのセンスと技術でしょうねえ。
浮遊感のあるサウンドスケープ、卓越したビート・メイクが織り成す、
妖しいまでにセクシーなサウンドは、
ジャジー・ヒップホップとかエレクトロニカといった言葉だけでは説明できない、
現代のジャズがデザインする、センスの新しさをおぼえます。
Kiefer "HAPPYSAD" Stones Throw STH2389 (2018)