うわぉ、懐かしいですね。
ロック・ステディ時代に人気を博した、フィリス・ディロンの名盤が再CD化されましたよ。
とうの昔にCD化されていた名作ですけれど、
今回のCD化はオリジナルのトレジャー・アイル盤のジャケット・デザインを踏襲し、
当時のシングルから16曲を追加するという、
まさにフィリス・ディロンの決定盤といえるもの。
ジャケット写真の容貌こそ、
ジャマイカン・ソウル・クイーンといった風格を感じさせるフィリスですけれど、
その声は少女のようなキュートさで、ソウルフルというタイプではありませんね。
彼女がロック・ステディの代表的なシンガーとなったのも、
そんなキューティーな魅力が、歌謡性の強いロック・ステディという音楽と、
ベスト・マッチだったからでしょう。
ドン・ドラモンドの殺人事件を契機に、スカがジャマイカ音楽のシーンから忽然と消え、
66年を境にロック・ステディへと移ろっていったのは、
「ダンス音楽から歌ものへ」という変化を意味していたように、ぼくには思えます。
そしてロック・ステディの歌謡性は、その後初期レゲエがうまく回収できたからこそ、
ロック・ステディの流行はわずか3年という短い期間で終った、
という理解もできるように思うんですけれど、いかがでしょう。
フィリス・ディロンがロック・ステディの歌謡性をいかに体現していたかは、
彼女が取り上げたカヴァー曲を見るだけでも、まるわかりです。
ビートルズの‘Something’、バカラックの‘Close To You’ という王道ポップスに、
シュレルズの‘A Thing Of The Past’ などのアメリカのR&B、
ステファン・スティルスの‘Love The One You're With’ や
マーリナ・ショウの‘Woman Of The Ghetto’ といった、
ロック、ジャズの同時代ヒット曲、さらには‘Perfedia’ なんて、
古~いポップスまで歌っていたんですからねえ。
‘Perfedia’ は、グレン・ミラーやザビア・クガードといった楽団や、
ナット・キング・コール、ジュリー・ロンドンなど大勢の歌手がカヴァーしてきた
メキシコの作曲家アルベルト・ドミンゲスが作曲した名曲ですけれど、
フィリスのロック・ステディ・カヴァーは、
この曲の秀逸なヴァージョンとなりました。
‘We Belong Together’ のようなせつないメロディなど、
フィリスの甘い乙女ヴォーカルにもろハマリだし、
彼女自身のオリジナル曲‘Don't Stay Away’ は、
ロック・ステディ永遠の名曲ですね。
幅広な選曲の中には、フィリスに明らかに向いていない曲もあり、
マーリナ・ショウの‘Woman Of The Ghetto’ など、
頑張って歌ってはいるものの、彼女のカワイイ声質では、
迫力不足となるのもしかたありません。
そんな相性の良し悪しは、曲によりあるにせよ、
ロック・ステディという音楽が持つ雑多な歌謡性の中で、
フィリスがさまざまな表情を見せるところが、このCDの最大の聴きどころといえますね。
のちのレゲエの時代になると、
こうした雑味がきれいさっぱりとなくなってしまうから、なおさらです。
音楽面では、ボブ・マーリーのカヴァー‘Nice Time’ を
カリプソにアレンジしているところが、なんといっても最大の注目の的。
ジャマイカン・カリプソのメントではなく、
本格的なトリニダッド流儀のジャップ・アップ・スタイルのカリプソなのだから、
嬉しいじゃないですか。
トレジャー・アイルのハウス・バンド、
トミー・マクックとスーパーソニックスの演奏もパーフェクトな、
ジャマイカ音楽がもっとも歌謡に振り切れた時代の傑作です。
Phyllis Dillon "ONE LIFE TO LIVE" Doctor Bird DBCD021