ブラジルのジャズ、大豊作です。
2018年の決定打といえそうな、スゴい新作が出ましたよ。
エルメート・パスコアール・バンドのベーシストという、イチベレ・ズヴァルギのアルバム。
エルメート・パスコアールをずっと遠ざけてきたので、
ぼくは初めて知る人ですけれど、
77年からエルメートのグループに在籍し、ベーシストとしてだけでなく、
作編曲家としても活躍してきたというのだから、
エルメートの重鎮ブレーンといえる人なんでしょう。
ハッタリの強いエルメートの音楽のうさんくささとは大違いの、
高度なオーケストレーション・スキルを持った才人です。
エルメート自身がやれば、プリテンシャスの塊みたいになる音楽も、
門下生たちがやると、これほど芳醇な音楽に変貌するのかと目を見開かされました。
エルメートのバンド・メンバーは、逸材揃いですね。
なによりも驚かされたのが、そのコンポジションとアレンジ。
複雑なキメと変拍子を多用した難易度の高いコンポジションと、
随所に不協和音のセクショナル・ハーモニーを織り交ぜながら、
アヴァンギャルドに逸脱することなく、コンテンポラリーに着地するアレンジが絶妙です。
曲によって3管から8管まで使い、鍵盤、ギター、リズム隊という編成で、
近年のラージ・アンサンブルに通じる快楽を味わえますよ。
くるくると変わっていく場面展開は、「めくるめく」という表現がぴったりで、
スリリングなフレーズを縦横無尽に編み込んだ編曲は、まさに音楽の万華鏡ですね。
リズムもノルデスチ・ジャズと呼びたくなるほど、
バイオーン、ショッチ、マラカトゥなど多彩なノルデスチの伝統リズムを取り入れています。
イチベレはサン・パウロ生まれのパウリスタなので、
ノルデスチのリズム応用は、エルメートの影響なんでしょうが、その咀嚼ぶりは見事です。
そのリズムも曲中でどんどん変化し、
高速サンバへと滑るように移り変わるなど、妖怪変化の楽しさ。
高度な音楽性を卓越したユーモアにくるみ、
伸びやかに聞かせる演奏の表情が、すばらしく魅力的じゃないですか。
ちっとも難解じゃないし、スノビズムなんてものとも無縁。
歓喜に溢れた、まさに音楽の遊園地ですよ。
イチベレ自身のスキャットや、メンバーのヴォイス・パフォーマンスの即興が妙に生々しく、
滑らかで流麗な旋律が展開するアレンジに、
生臭いアクセントを付けているところも、この音楽に体温を与えていて、嬉しくなります。
Itiberê Zwarg & Grupo "INTUITIVO" SESC CDSS0110/18 (2018)