カリの『ラシーヌ』を愛するファンには、たまらないアルバムですね。
クラリネットやトロンボーンの伸びやかな演奏とともに、
バンジョーのコロコロとした響きが、田舎のビギンといったムードをまき散らします。
お懐かしや、ギイ・ヴァドリュー。
70年代から活躍するマルチニークのトロンボーン奏者です。
ハイチのコンパがフレンチ・カリブを席巻していた70年代に、
カダンスで対抗しようとしていたマルチニークで、
すっかり流行遅れとなっていた古いビギンのスタイルを堅持していた頑固者(?)です。
ズークが吹き荒れた90年代には、さすがのギイもシンセを導入して、
エレクトリック色の強いアルバムを作っていましたけれど、
レパートリーはあいかわらずビギンやマズルカで、ズークには手を出さなかったもんなあ。
その後、まったくギイの名前を見なくなっていましたけれど、
きっと地元では演奏活動を続けていたんでしょうね。
今回のアルバムは、オタンティックというグループ名義による新作となっています。
レーベル名から察するに自主製作ぽく、ディスクもCD-Rなんですが、
内容はこれまでぼくが聴いたことのあるギイのアルバムの中では、最高作ですね。
アレクサンドル・ステリオ、レオナ・ガブリエル、アルフォンソなど、
古典ビギンの名曲集となっていて、
ギイのトロンボーンとクラリネットの二管に、ピアノ・トリオの編成で演奏しています。
ギイがバンジョーを弾きながら歌う曲もあって、
これがカリの『ラシーヌ』を思わせるわけなんですが、
なかなかに味わいのある歌を聞かせてくれます。
地元マルチニークでは、アンティーユの華やかな民俗衣装をまとった女性たちを
ステージに迎えたコンサートなども行われているようで、う~ん、観てみたい。
民音あたりが呼ばないかな。
O’Tantik "LE GROUP O’TANTIK - GUY VADELEUX" GV Production GV013 (2014)