もう金輪際、「シティちゃん」などと呼びません、いや呼べません。
この大物感、これがあのシティ・ヌールハリザなのかと、
タメ息がでるほどの変貌ぶりです。
結婚して貴族の称号ダトゥを得、
貴族の社交や生活習慣もすっかり板についたのでしょう。
堂々とした立ち居振る舞い、自信に満ち溢れた所作、
雄弁にMCするシティに、もうかつての少女ぽい面影はありません。
シティのライヴといえば、
05年のロンドンのロイヤル・アルバート・ホールの感動が
いまだに忘れられないんですけれど、
その感動は、田舎の貧しい村に生まれた天才少女歌手が、
大都会に出て成功し、
ついにマレイシアを代表する歌手まで上りつめて、
ロンドンの名門コンサート・ホールの
ステージに立ったのを目撃する
サクセス・ストーリーにありました。
しかしあの時の感動も、通過点にすぎなかったんですね。
シティはすでにそこから二段も三段も
ステップアップしたステージに立っています。
かつての少女は貴婦人へと成長し、
天才歌手は国が誇る大歌手となったことを、
これほど実感させるライヴはありません。
本DVDは15年11月7日と8日の2夜、
クアラルンプールのイスタナ・ブダヤで行われたコンサートを収録したもの。
東方のともし火コンサートに続くコンサート・ライヴで、
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-05-31
豪華なオーケストラを率いて伝統音楽を披露した前回とは趣向をぐっと変え、
インドネシアの大ヴェテラン、ヘティ・クース・エンダンと
マレイシアのヴェテラン・ロック・シンガー、ラムリ・サリップの2人をゲストに迎え、
カジュアルな雰囲気でポップス中心のレパートリーを歌う、歌謡ショーとなっています。
シティは大先輩のヘティにもまったく臆するどころか、対等に渡り合っていて、
大先輩と後輩というより、めちゃめちゃ仲の良い年の離れた友人といった雰囲気ですね。
ヘティがもうノリノリで、エンタテイナー魂を炸裂させてシティを守り立てるところは、
長い芸能生活を経たヴェテランの懐の深さを感じさせます。
ヘティの歌の上手さも相変わらずで、ラテン・ボレーロにアレンジして歌った、
80年代のポップ・クロンチョンのヒット曲‘Kasih’が聴きもの。
シティとの息の合ったデュエットにも、引き込まれるばかりです。
いまさらですけど、本当に二人の歌唱力にはホレボレしますよ。
ロック・シンガーのラムリ・サリップを迎えたのも大成功で、
歌謡とロックというスタイルの違いが、互いを引き立て合っています。
ラムリがシティの横でダミ声でいくらシャウトしても、
シティの歌がぜんぜん負けてないところがスゴいんだわ。
シティの歌のダイナミック・レンジがハンパなく大きくて、
ロック・シンガーとは別種のスケール感で圧倒します。
ラムリが歌い終えたあと、
「シティはソウル・シンガーだ!」と思わず口走るところなど、そのいい証明です。
ヴィデオの後半に収められたリハーサル風景が、また見もの。
狭いスタジオの中で、ミュージシャンに指示を出すラムリと、
シティとヘティのいかにもリラックスした楽しそうな様子が、
コンサートの成功を約束しているようで、観ているだけで笑みがこぼれます。
[DVD] Dato’ Siti Nurhaliza "KONSERT SATU SUARA VOLUE 2" Siti Nurhaliza Productions/Universal 5735513 (2018)
[DVD] Siti Nurhaliza "IN CONCERT, ROYAL ALBERT HALL LONDON" Suria SRDVD06-53618 (2006)