10年くらい前だったか、ウズベキスタンに旅した人が現地で買い付けてきた
ウズベキスタン盤CDが、話題を呼んだことがありました。
その時ウズベク・ポップにも、いろいろなスタイルがあることを知ったわけですけれど、
とりわけ興味をひかれたのが、ホラズム出身の女性歌手たちでした。
打ち込み使いのポップスながら、フォークロアな香り高い伝統ポップスで、
タールやドゥタール(ロング・ネックの弦楽器)、ドイラ(フレーム・ドラム)といった、
かの地の楽器がふんだんにフィーチャーされていました。
トルコやイラン、カスピ海に面する国々のポップスを連想させつつ、
そのどれとも違う趣に、これがホラズムの特徴なのかと思いながら聴いたものです。
ホラズムは、古代からペルシャ、アラブ、テュルク系の民族が進出し、
さまざまな文化が混淆した都市で、13世紀には中央アジアから西アジアに及ぶ、
東方イスラーム世界の最強国ホラズム・シャー国の中心地だった場所。
ウズベキスタンのなかでも独特の文化を育んできたホラズムが、
民謡や伝統歌謡の宝庫だということも、そうした歴史が生み出してきたのでしょう。
そんな伝統が、現代のポップスにまで脈々と受け継がれていることを、
フェルーザ・ジュマニヨーゾヴァ嬢のアルバムが証明していたんですが、
今回はポップスではなく、ホラズムの古謡を歌う、
素晴らしい男性歌手の現地盤を聴くことができました。
棚卸していたら、当時の入荷品が今頃出てきたんだそう。
その歌は、タールを抱える表紙が示すように、
トルコの吟遊詩人アシュクのサズ弾き語りを思い浮かべもするんですけれど、
悠々と歌うその雰囲気は、トルクメニスタンにカスピ海をまたいだ国、
アゼルバイジャンの伝統音楽ムガームに通じるところも感じられます。
野趣に富んだその歌いぶりは、イラン古典声楽やムガームのように
装飾的な技巧を節回しに用いる洗練とは、別種の魅力があるんですね。
喉を開いた豊かな発声と伸びやかに歌うその歌い口には、自由さがあって、
ゆったりとその歌い回しに身を委ねていると、心が落ち着いていきます。
緩急をつけた小編成の弦・打楽器アンサンブルに、一部の曲では
弦楽オーケストレラが付く曲もありますけれど、ここで歌われるのは、
サマルカンドのウズベク古典声楽とはまったくの別物。
これがホラズムのフォークロアが生み出した伝統歌謡の味わいなんですね。
なんだか聴いていると、この歌手が特別素晴らしいわけでなくて、
こういう歌い手がホラズムには大勢いるんじゃないかという気がしてくるんですよ。
もっと聴いてみたいけど、ウズベキスタンの現地盤なんて日本じゃ手に入らないし、
10年前当時でも現地にはオーディオCDじたいが出まわっていなくて、
あるのはMP3 CDばかりだったそうなので、
う~ん、ホラズムに行くしかないんですかねえ。
Abduqodir Yusupov "SOZ BILAN" Ravshan no number (2008)
Feruza Jumaniyozova "SIZNIKI SANITATIM, SIZNIKI KALBIM" PanTerra Studio no number (2007)