イランの古典声楽は蝋管・SP時代に限ります。
19世紀生まれのエグバール・アーザルやターヘルザーデを知ってしまったら、
もう現代の古典声楽なんて聞けません。
スクラッチ・ノイズなどものともしない剛直な歌唱は、
現代の歌い手にはないスゴ味があります。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-06-14
そんなぼくなので、レザー・ゴリ・ミルザザリの見たことのないCDを発見して、
矢も楯もたまらず飛びついてしまいました。
そしたら、あれ? 聴き覚えのある曲ばかり。
それもそのはず、さんざん聴いたマーフール盤とジャケットは変わっているものの、
CD番号は同じで、新装再発盤なのでした。
2曲が差し替わり、曲順を変えているほか、
旧版とは音源も違うのか、収録時間に差があり、音質もだいぶ違います。
旧版はノイズを取りすぎて、音質が少し痩せていたのに対し、
新装版はノイズをある程度残しながら、より自然な音に近づけているんですね。
これならダブリで持っていてもいいかなと納得したものの、
13年にこの新装版が出ていたのは、気付きませんでした。
レザー・ゴリ・ミルザザリは、
ターヘルザーデより下の世代の20世紀生まれで、
わずか40歳で早逝してしまった名歌手です。
録音があまり残されておらず、マーフールのほか、
カルテックスとチャハールバーグからもCDが出ていますけれど、
それぞれかなり曲はダブります。
レザーの直情的なタハリールが爆発する瞬間のスリリングさは、たまりません。
緊張を高めて一気に解き放つタハリールの輝かしさは、格別です。
芸術性と野性味が共存するのは、この時代のアーヴァーズだけでしょう。
伴奏も素晴らしく、もっとも多くの曲でモシル・ホマーユンがピアノを弾くほか、
巨匠アボルハサン・サバーのヴァイオリンも聴くことができます。
モシル・ホマーユン(1885-1970)は、ピアノで古典音楽を初めて演奏したパイオニアで、
サントゥールの模倣の域を超えたピアノ演奏法を確立した巨匠です。
モシルのスタイルは、のちのモルタザー・マハジュビーや、
ジャヴァッド・マアルフィといったピアニストたちにも大きな影響を与えたといいます。
モシルはターヘルザーデと共演した録音なども残っていますけれど、
レザーの伴奏を務めた曲が、代表的名演とみなされているようですね。
レザーのCDを聴いていて、モシル・ホマーユンのピアノをもっと聴きたくなり、
ピアノ・ソロ・アルバムも引っ張り出してきたんですが、
微分音調律されたピアノで、マーフール、ダシュティ、ホマーユン、
アフシャーリーといった旋法を10分前後で聞かせる独奏は、やはり絶品です。
Rezâ-Qoli Mirzâ Zelli "VOCAL PERFORMANCES OF REZÂ-QOLI MIRZÂ ZELLI" Mahoor Institute of Culture and Art M.CD52
Reza Gholi Mirza Zeli "THE VOCALS OF REZA GHOLI MIRZA ZELI" Mahoor Institute of Culture and Art M.CD52
Moshir Homâyun Shahrdâr "MOSHIR HOMÂYUN SHAHRDÂR, PIANO" Mahoor Institute of Culture and Art M.CD454