セネガルを代表する女性歌手、クンバ・ガウロの3年ぶりの新作。
昨年暮れの12月7日に、現地セネガルでCDとUSB(!)のフォーマットで
リリースされたんですが、これは力作ですねえ。
セネガルの多様な民族、各地方の文化遺産を掘り下げて歌うという企画に加え、
2月24日に予定されている大統領選挙に向け、
セネガル社会の団結と平和への願いを込めたアルバムとなっています。
こういう企画なら、元文化観光大臣のユッスー・ンドゥールこそやるべきじゃない?
と思うところですけれど、近年、ユニセフやUNDP(国連開発計画)など、
さまざまな国連機関の活動に積極的に参画してきた、クンバらしい仕事ともいえます。
ぼくがクンバの慈善活動に共感するのは、
2010年のハイチ地震の時、クンバがアフリカの音楽家で、
真っ先に支援の手を差し伸べたことを、よく覚えているからです。
2010年1月12日、ハイチの首都ポルトープランスを襲った地震によって、
大統領府や国会議事堂が倒壊し、死者31万6千人に及ぶ
未曾有の大災害となったことは、みなさんも覚えていますよね。
クンバはこの時、苦しむハイチの人々のために、
アフリカが何もコミットしようとしないことに苛立ちを覚え、
3月に“Africa for Haiti” の旗印をあげ、
プロジェクト・コーディネイターを引き受けました。
クンバは、ロクア・カンザにハイチ救援ソングの作曲を依頼し、
アフリカ中の音楽家に声をかけ
ウム・サンガレ、セクーバ・バンビーノ、パパ・ウェンバ、アルファ・ブロンディ、
ユッスー・ンドゥール、オマール・ペン、バーバ・マール、アイチャ・コネ、
イドリッサ・ジョップ、イスマエル・ローを集め、レコーディングを実現しました。
その後、大規模なチャリティ・コンサートをダカールで敢行しています。
この時にクンバが取った行動は、クインシー・ジョーンズとライオネル・リッチーによる
“We Are The World 25 Years for Haiti” のレコーディングよりも、
はるかに大きな意義のあるものと、ぼくの目には映りました。
クンバのプロジェクトは、日本ではニュースにすらなりませんでしたが、
クンバの志は、ぼくの胸にしかと刻みこまれたのですよ。
そんなぼくが信頼を置くクンバの新作のテーマは、「セネガル文化再発見の旅」。
セネガルを代表するスター歌手としての、
強烈な自覚があってこそ作り上げられた作品といえます。
クンバ出自のプールだけでなく、ウォロフ、セレール、バンバラ、ジョラなど、
セネガルのさまざまな民族に由来する曲を取り上げ、
曲中に特徴的なダンス・リズムを差し挟みながら、
セネガル音楽のカラフルな魅力を浮き彫りにしています。
ホーン・セクションやパーカッション・アンサンブルが炸裂する
ンバラ・マナーなトラックもあるものの、
コラ、ハラム、リティ、バラフォン、ウードをフィーチャーした、
セネガルの民俗色を打ち出したサウンドづくりが聴きものです。
もちろんプールの曲では、濁った音色とひび割れた響きが特徴のプールの笛が奏でられ、
グリオ育ちのクンバの歌声を、グッと引き立てていますよ。
作曲家、脚本家、詩人、画家と多方面に活躍し、17年に亡くなった父親の
レイ・バンバ・セックに捧げたレクイエムもあれば、
サッカーのアフリカ・カップのアンセムとなった、
高揚感溢れるハッピー・チューンもあり。
全曲生音・人力演奏のなか、ファーダ・フレディと共作したこの曲のみ、
打ち込み使いとなっていて、プロダクションはダーラ・J・ファミリーが担当し、
ボーナス・トラックとしてアルバム・ラストに収録されています。
アフリカのスター歌手という立場で、社会的な責任も引き受け、
それを担おうとする意気込みに、ぼくはクンバの人間性を感じてきましたけれど、
今回の新作ほどその姿勢をはっきり打ち出した作品はありません。
2年前に来日公演が計画されたものの、直前になって頓挫してしまいましたが、
ぜひ今年こそ実現してほしいものです。
Coumba Gawlo "TERROU WAAR" Sabar no number (2018)