南アから、男女若手2人それぞれのデビュー作が届きました。
まずはじめは、クワズールー=ナタール州南岸、ポート・シェプストーン出身という、
ムリンド・ザ・ヴォーカリストことリンドクレ・マジェデジ。
若干23歳の新人で、ヒット・メイカーのDJマフォリサにインターネットで見出され、
一躍ブレイクしたというアフロポップのシンガーです。
そのデビュー作から溢れ出す、
南アらしいオーセンティックな味わいをもった歌い口に、
グイグイ引き込まれてしまいました。
どっしりとしたスロー中心で迫り、ダンス・ナンバーのアップ曲はまったくなし。
じっくりと歌う落ち着いた歌いぶりにも、びっくりさせられました。
え? この人、まだ23歳なんだよね?と思わず確かめなくなるほど、
若さに似合わない、風格のある歌を歌える人で、
じわじわと聴く者の胸に、狂おしさを沁み込ませていくあたり、力量を感じさせます。
終盤の‘Lengoma’ を初めて聴いた時は、思わずもらい泣きしてしまったほど。
胸に沁みる、いい曲です。
歌詞はわかりませんが、鎮魂の祈りを強烈に感じさせる曲です。
「アパルトヘイト」を知らないポスト・アパルトヘイト世代の音楽家が増えるなか、
ムリンドは母親や叔父の体験を通して、アパルトヘイト時代の苦闘から
多くのインスピレーションを得ているというので、
そういう思いが、きっと歌に込められているんでしょう。
共演を願うアーティストとして、オリヴァー・ムトゥクジの名をあげるなんて、
嬉しい若者じゃないですか。そのコメントだけで、この人の音楽性ばかりでなく、
人間性が伝わってくるようです。
クワイトやヒップホップR&Bを消化したコンテンポラリー・サウンドは、
グローバル・ポップとして通用するハイ・クオリティなプロダクションが施されていて、
南ア・アフロポップの進化を実感させます。
アップデイトされた現代のプロダクションにのせて、
南アらしいメロディと歌い口で王道のポップスを歌うムリンド。
ザ・ヴォーカリストの芸名は伊達じゃありませんよ。
Mlindo The Vocalist "EMAKHAYA" Sony Music CDSAR019 (2018)