カセ・マディが亡くなった今、マンデ音楽の未来は、
この人の肩にかかっているんじゃないでしょうか。
07年に“SEGU BLUE” でデビューしたバセク・クヤテ率いるンゴニ・バは、
4台のンゴニでアンサンブルを組むという、それまでなかった斬新な編成で、
マンデの伝統音楽を見事に現代化してみせました。
あのデビュー作は、フレッシュなアンサンブルが奏でる重厚なサウンドと、
ロックから借用したリックを、ンゴニでさりげなく弾く耳新しさに、
めちゃカンゲキしたことを、いまでもよく覚えていますよ。
その後バセクは、トゥマニ・ジャバテやアビブ・コイテらと活動するかたわら、
アメリカのバンジョー・プレイヤー、ベラ・フレックとのセッションや、
「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の本来の企画だった、
アフリカ音楽とキューバ音楽とのセッション『アフロキュービズム』へ参加するなど、
マンデ・ポップの可能性を拡張し続けています。
ポール・マッカートニーやデイモン・アルバーンとの共演で、
国際的にもその名を知られ、西アフリカ音楽を代表する音楽家の一人となりました。
グリッタービートから出した前作では、エレクトリク・ンゴニを前面に打ち出し、
ロック的なビート処理で現代的なサウンドにぐっと寄せた作品となっていましたが、
今回の新作は一転、原点回帰な作風となっています。
サウンドは生音中心で、アンプリファイド以外のエフェクト使用は感じられません。
一聴、「こなれたなあ」という満たされた思いにとらわれましたね。
キューバ音楽を取り入れたノスタルジックな味わいの‘Wele Cuba’も、
ンゴニ・バの音楽性にまったく違和感なく溶け込んでいます。
今回すごくいいのが、味わいを増したバセクの奥方、アミー・サッコの歌。
初々しくもあったデビュー作のフレッシュな歌声から、
徐々に渋みを増して、サビの利いた深みのある声になりましたねえ。
もちろんグリオらしい節回しは、天下一品です。
バセクのプレイでは、インストのタイトル曲で披露する、流麗なソロが聴きどころ。
望郷の念を抱かせるアイロニーに富んだ楽想とともに、グッときちゃいましたよ。
ここぞという場面で、速弾きを過不足なくプレイするところに、円熟を感じさせます。
また‘Wele Ni’ では、ボトルネックを使いンゴニをスライド奏法で弾くという、
これまた初のトライをしていて、ンゴニ奏者として
たゆみなく進化を続けていることがわかります。
デビュー作からゲスト起用され続けてきた、
故カセ・マディ、故ズマナ・テレタの大先輩両名に捧げられた本作、
個人的にはデビュー作と並ぶ愛聴盤となりそうです。
Bassekou Kouyate & Ngoni Ba "MIRI" Out Here OH032 (2018)