これまであまり関心を向けてこなかったジャズ・オーケストラの作品が、
がぜん面白く感じられるようになったのは、
ジャズが「アンサンブルの時代」を迎えた象徴でもあるんでしょうね。
マリア・シュナイダー・オーケストラに耳目を集めるようになってだいぶ経ちますけど、
最近では、このノルウェイのジャズ・オーケストラが気に入りました。
エイヨルフ・ダーレというピアニストが率いる、シーエン・ジャズオーケストラ。
シーエンとは、エイヨルフが住むノルウェー南部の都市で、
ノルウェイ国立音楽大学の准教授でもあるエイヨルフが、
大学のあるオスロまで通勤する退屈な時間を使って作曲したという作品です。
タイトルの『通勤者レポート』とは、そういうわけなんですね。
車窓に広がる冬の空模様が流れ行く様子を、
描写するかのような映像的なオープニングは、
シーエンからオスロへの電車からの眺めでしょうか。
イントロのクラシカルなピアノのタッチから、
北欧ジャズらしいサウンドが横溢しますけれど、
続く2曲目は、オリエンタルな旋律を細かく動かしていくアレンジで、
がらりと雰囲気が変わります。
オリエンタルなメロディばかりでなく、アコーディオンを起用するような音色の選択、
優雅なワルツを取り入れたリズム処理など、
エキゾティックに響く要素をあちこちに散りばめながら、
あくまでもスパイスにとどめた、抑制の利いた作編曲がすばらしいですね。
美しく整ったオーケストレーションで聞かせるクラシカルなトラックもあれば、
幾何学的なラインでアグレッシヴに攻めるトラックもあるという、
バランス感覚のある作曲と、抑えの利いた編曲が豊かな色彩感を生み出し、
音楽に風格をもたらしています。
Scheen Jazzorkester Eyolf Dale "COMMUTER REPORT" Losen LLOS204-2 (2018)