これが10代の歌声とは!
恋に疲れたやるせなさを表現できる、大人びたヴォーカル。
アンビエントなサウンドスケープを、ゆったりとたゆたうヴォイスに、息を呑みました。
一瞬たりとも声を張ることのない、柔らかで落ち着きのある声。
少女独特のキンと立つ声が苦手なぼくには、生理的にとてもなじむ女声です。
今年21となる新人女性R&Bシンガーが
16~17年にアナログと配信で出したEP3作をCD化した作品。
全21曲、収録時間72分を超すヴォリュームは、
少し前までのR&Bマナー(最近は40分程度に落ち着いてきましたね)ですけれど、
おなか一杯にならないのは、ヴォーカルの魅力ゆえ。
全曲ミディアム・スロー・ジャム。
90年代を思わすメロウなトラックが並びますけれど、
ヒット性のありそうな飛び抜けた曲がなく、
起伏の乏しい幻想的な曲調が並びます。
フックの利いたメロディもなければ、キャッチーなラインもないのに、
アルバム全体を通じて覆う、濃密な空気感に金縛りとなります。
甘美なサウンドの中でけだるく揺れる吐息めいたヴォーカルは、
ほのかな体温を伝え、時にいじらしいオンナ心を示したり、
また時につれなく歌ってみせたりと、その歌の表情は、
デリカシーの極致と呼びたくなります。
エモーショナルに歌っても、歌が強くならないのは、
感情表現が昇華しているからこそ。
その成熟した表現力に舌を巻きます。
そっと歌い出す‘Every Kind Of Way’ の歌い口に、もうクラクラ。
おぢさん、恋をしそうです。
H.E.R. "H.E.R." RCA 19075-93269-2 (2019)