今回のジスコベルタスのリイシューで一番驚いたのが、
エルザ・ラランジェイラのデビュー作。
プレ=ボサ・ノヴァ期に活躍した歌手で、
のちにボサ・ノーヴァを大衆歌謡化した人気歌手
アゴスチーニョ・ドス・サントスの奥さんになった人ですね。
エルザの63年の代表作“A MÚSICA DE JOBIM E VINICIUS” は、
ヴィニシウスとジョビンのコンビで制作した2作のうちの1枚で、
もう1枚は、ボサ・ノーヴァ第0号アルバムとして
有名なエリゼッチ・カルドーゾの『想いあふれて』だったのだから、
どれだけ貴重なアルバムだったかわかろうというものでしょう。
ブラジルで2度もCD化されたので、
マニアならずとも耳にしている人は多いと思いますが、
デビュー作がこれまた極上の逸品で、びっくり。
いやあ、すごい。
この人、ボサ・ノーヴァ歌手なんかじゃなく、
超一級のサンバ・カンソーン歌手だったんですねえ。
デビュー作のタイトル曲が、サンバ・カンソーン名曲中の名曲、
ドローレス・ドゥランの‘A Noite Do Meu Bem’ というのにも、泣かされます。
驚くのは、曲によりさまざまに声を変えて歌えるという、表現力の高さ。
抜きんでた歌唱力の証明でもあるわけですけれど、
清楚なチャーミングさを溢れさせるかと思えば、妖艶な表情もみせ、
はたまた、ざっくばらんな下町娘ふうにもなるなど、さまざまなキャラを演じてみせます。
なかでも絶品なのが、繊細な歌い回しとダイナミックに歌い上げる両極を、
鮮やかに披露したヴィニシウス=ジョビン作の‘Eu Sei Que Vou Te Amar’。
この素晴らしい歌唱があったからこそ、
のちにあのヴィニシウス=ジョビン曲集の制作へとつながったんじゃないでしょうか。
マリア・クレウザが好きな人なら、シビれることうけあいの
サンバ・カンソーンの傑作盤です。
Elza Laranjeira "A NOITE DO MEU BEM" RGE/Discobertas DBSL102 (1960)