うぉ~、この大物感、ハンパないね。
もはや父マーティン・カーシー、母ノーマ・ウォーターソンの名前を出さずとも、
イングリッシュ・フォークのヴェテランと肩を並べる貫禄が備わった、イライザ・カーシー。
新作は原点回帰ともいうべき、直球勝負の伝統音楽アルバムです。
オープニングの曲で、ハンマー・ダルシマーの響きを鈍くしたような音色に、
何の楽器だろうかと思えば、どうやらヴァイオリンの弦を、箸で叩いているらしい。
う~む、こういうところも、フォーク・シーンのイノヴェイターとして活躍してきた、
型にはまらないイライザの面目躍如だなあ。
パワフルな無伴奏歌ともども、伝統の型をなぞらない逞しさが彼女にはありますね。
ノース・ヨークシャー、ロビン・フッド湾にある、
イライザの自宅の寝室で録音されたという本作、
父マーティン・カーシーのギターに、コンサーティーナやベースなどが数曲で加わるほかは、
イライザが弾くヴァイオリンやヴィオラを多重録音しただけのシンプルな構成だからこそ、
伝統音楽家としてのイライザのスケールの大きな音楽性が、浮き彫りになっています。
イライザを初めて観たのは、両親と3人で来日した97年1月のこと。
ウォーターソン:カーシーの初アルバムでその歌声とフィドル演奏を披露し、
ソロ・デビューを果たしたばかりの、まだ初々しい時代でした。
ジャケットのイライザの美少女ぶりに、サインを入れてもらうのが忍び難く、
バックインレイに3人のサインをもらったんだっけ。
あのライヴも思い出深いなあ。
新年明けて間もない5日の夜、ハコは新宿ロフトでした。
イライザの真っ赤に染めたショートヘアとスニーカーの、
いかにも現代っ子らしい姿が瞼に焼き付いていますよ。
当時まだ19歳だったんだよねえ。
床をがんがん蹴るステップもパワフルなら、ボウイングも思いのほか激しく、
ニコニコしながらヴァイオリンを弾きまくるチャーミングな姿に、
うちのコたちもこんな女のコに育ったらなあ、なんて思いながら観たもんでした。
ライヴが終わり、翌日が年明けの初出勤日だったので、
単身赴任先だった群馬へと向かったんでした。
東京は雨だったんですけど、熊谷を過ぎたあたりから雪になって、
新前橋の駅に降り立つと、そこは一面の銀世界。
幻想的な景色にたじろぎながら、シンと静まり返った雪降る街を一人、
新雪を踏みしめながら、単身寮へと向かったことが忘れられません。
Eliza Carthy "RESTITUTE" Topic TSCD599 (2019)
Waterson:Carthy "WATERSON:CARTHY" Topic TSCD475 (1994)