ティナリウェンの”LIVE IN PARIS” にフィーチャーされた、
伝説のトゥアレグ人女性歌手バディ・ララ。
80歳にしてリリースされた初アルバムです。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-01-09
アルジェリア南部、ニジェール国境に近い町
イン・ゲザムで37年に生まれたバディ・ララは、
10歳の時から母親とともに、ティンデが催される祝祭の場で歌ってきた大ヴェテランで、
60年代にトゥアレグのミューズとして人気を博した人です。
70~80年代には、テイナリウェン同様、
トゥアレグの民族意識を高める文化的アイコンとなって、
トゥアレグのゴッドマザー的な役割を果たします。
アルジェリアやマリの若いトゥアレグ人ミュージシャンたちと積極的に共演し、
90年に15人の男女からなるグループを率いてヨーロッパをツアーするなど、
海外でも知られる存在となりました。
そんな伝説的存在のバディ・ララの初アルバムでは、
太鼓(ティンデ)と手拍子とお囃子のみで歌われる伝統的なティンデと、
ギター・バンドを加えた、いわゆる「ギター・ティンデ」と呼ばれるスタイルを織り交ぜて
歌っていて、ギター・ティンデの伴奏は、イムザードが務めています。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-08-30
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-07-28
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-02-24
ティナリウェンのライヴでも披露された、
チャントを唱えるドローンのようなお囃子をバックに、
バディ・ララが詩を吟じるのですけれど、
単調な反復だけでできている曲が退屈しないのは、
歌と手拍子とバンドのリズム・セクションが生み出す、
ポリリズムの豊かなニュアンスゆえですね。
微妙にズレる手拍子や、お囃子の男女の異なる声がレイヤーされるところに、
ティンデの味わいがあるといっても、過言じゃありません。
ゆるい独特のグルーヴは、催眠的なトランスを招き寄せる魅力があり、
アルバム中盤で3曲続けて歌われる伝統的なティンデに、
それはひときわ強く表われています。
トゥアレグ女性の歌のレパートリーには、昼間の祝祭で歌われるティンデともうひとつ、
夜に若い女性が将来の伴侶を見つけるために歌う、イスワットというものがあるそうです。
トゥアレグ版歌垣みたいなものなのでしょうかね。
イスワットは、男性が低音でずっと唸るように歌う
イシガダレンと呼ばれる合唱をバックに、女性が詩を吟じるもので、
ティナリウェンのライヴの曲がまさにそれに近いものでしたね。
曲名は‘Tinde’ となっていましたけれど、
ティンデとイスワットって、どういうふうに聴き分けるんだろう?
Badi Lalla "IDI YANI DOUHNA" Padidou CD783 (2017)