前作も結局、記事を書かずじまいにしてしまったティナリウェン。
だって、もう、素晴らしいの一語につきちゃって、それ以外の言葉が出てこないんですもん。
新作のライヴも圧倒的で、今回もなんも書くことがないなあと思っていたんですけれども。
これまでDVDではライヴ盤があったものの、CDとしてはこれが初のライヴ盤。
ロケーションは、パリのブッフ・デュ・ノール劇場。おととし14年の12月13日に録られたものです。
今作の大きな目玉は、ゲストに伝説的な女性歌手ララ・バディを迎えたこと。
御年75のララ・バディは、トゥアレグ女性の伝統的な祝祭歌であるティンデ(ティンディ)を
アルジェリア南部タマンラセットに広めて、70~80年代に伝説化した人だそうです。
70年代トゥアレグたちは、弾圧から逃れるため、ディアスポラとして難民となっていきました。
男たちはゲリラとなり、リビアのゲリラ兵養成キャンプで誕生したティナリウェンの音楽が、
野営地から野営地へとダビングされ、
海賊カセットによって伝説化されたのはご存じのとおりですね。
その一方で、母系社会のトゥアレグ文化の中心をなす女性たちによるティンデが、
タマンラセットを中心に花開いていたということは、今回初めて知りました。
そのティンデが冒頭から歌われる今回のライヴ盤、
いつものティナリウェンのデザート・ブルースと違った雰囲気に包まれます。
ティナリウェンの男性メンバーたちが、♪ア~~~~~♪と
ドローンのような持続低音を唸り続けるのをバックに、
手拍子とパーカッションとベースが刻むリズムの上に、ララ・バディがチャントします。
これがトゥアレグ女性の伝統的なティンデ。
現地では、女性たちが布をかぶせた太鼓の周りに円陣になって座り、
太鼓を叩きながら、手拍子とウルレーションを交えたお囃しとともに歌われます。
ティナリウェンの方はいつものデザート・ブルースですけれど、
もはや風格を通り越して、滋味な味わいさえ感じさせる重厚さは圧巻です。
どれほどの悲哀や望郷の念が、一つ一つの歌に込められているのか、
その中身を想像さえつかないわれわれにも、圧倒的な説得力となって胸に迫ってきます。
Tinariwen "LIVE IN PARIS" Wedge 87428-2 (2015)