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センスじゃなくて技術 クラックラックス

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CRCK LCKS  TEMPORARY.jpg

クラックラックスの前作“DOUBLE RIFT” には、ホント打ちのめされました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-08-30
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-10-29

昨年のベスト・オヴ・ベストどころか、ここ十数年これ以上の衝撃を
日本のバンドから受けたことはなかったからです。
ジャズやクラシックの教養をしっかりと身に付けたうえで、
ポップスの作曲技法も兼ね備えたバンドの登場は、
日本のポップ・ミュージックのクオリティを、これまでとは別次元のレヴェルに
引き上げたことは疑いようがないでしょう。
ジャズとポップスの境界が溶解したことを、
これほど実感させるバンドはありませんでした。

ここ最近のシティ・ポップ・ブームには、
二十代でリアルタイムに聴いた初老世代には片腹痛い思いもしますけれど、
クラックラックスはそんな過去の音像に寄りかかるようなマネはしていません。
だからこそ、リスペクトしてるんです。センスなんかじゃありません、技術ですよ。
技術がない者に限って、センスとか言いたがるんですよね。
ぼくらの世代では成し得なかった演奏技術を備え、多様な音楽を修得して
空恐ろしいほどの才能を発揮している彼らが、本当にまぶしく見えます。

新作はフル・アルバムだそうですけれど、
前作がEPという扱いじたい、どうもピンときませんね。
収録曲数や時間も、どちらも大して変わらないのに。
そのあたりの事情はよくわかりませんが、
今回の『TEMPORARY』は、『DOUBLE RIFT』の姉妹編といった印象が強いです。

どちらも短いイントロダクションでアルバムがスタートし、
続くオープニング曲がキャッチーなメロの、ツカミのあるトラックを置いたのは、
同じネライというか、同じ構成ですね。
前回の「O.K.」がめちゃくちゃアガるハッピー・チューンでしたけれど、
今回の「KISS」は、これまたチャーミングでめっちゃいい曲なんです。
少し涙の味がして、こみあげるものがあるメロディに、ぐっときますよ。

石若駿のドラムスがアグレッシヴに迫るトラックも、ちゃんと用意されています。
前作の4曲目「Skit」に呼応するのが、3曲目の「嘘降る夜」で、
ポリリズムならぬポリテンポという、凝ったアレンジを聞かせます。
小田朋美が歌詞の1語を、ゆっくりと全音符で置いていくような歌に、
4倍のテンポで石若のドラムスがカオスに暴れまくる、
短いインタールードのようなトラックが聴きものとなっています。

前作との大きな違いは、小田朋美のヴォーカルに深めのリヴァーブをかけているところ。
井上銘のギターが端々に印象的なリックを聞かせるところも、耳残りしますね。

ラストに前作収録の「病室でハミング」のライヴ・ヴァージョンを置いて、
小田が「ありがとうございます」とMCしたあと、
すぐに始まる「Shower」のイントロでフェイドアウトするアルバムの終わり方も、
余韻の残る締めくくりで、胸アツです。

CRCK/LCKS 「TEMPORARY」 アポロサウンズ APLS1912 (2019)

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