マロヤ・ロック!
う~ん、ありそうで、なぜかこれまでなかったコンセプトのグループですね。
アシッド・フォークやエレクトロでマロヤをモダン化した、
アラン・ペテロスやジスカカンといった先人はいましたけれど、
ここまでマロヤをストレイトにロック化したグループは、初めてじゃないかなあ。
トランス・カバールは、
ギター、ベース(コントラバス)、ドラムス、カヤンブによる4人組。
マロヤのリズムを強調した音楽性は、パーカッション・ミュージックとしてのマロヤの
アイデンティティを前面に押し出しています。
鍵盤が不在なので、マロヤのメロディに余計なハーモニーが足されることなく、
よりいっそうサウンドがストレイトに響くんですね。
グループのリーダーは、ダニエル・ワローの甥っ子のジャン=ディディエ・オアロー。
ジャン=ディディエが15年にコバルトから出したソロ・アルバムでは、
もっとエレクトロなマロヤをやっていたのに、
ハーモニーを削ぎ落としてエレクトリックな要素をぐっと落とした本作は、
サウンドの方向性を変えてきましたね。
ジャン=ディディエはパリ郊外サルトルーヴィルの生まれですけれど、
マロヤへの傾倒ぶりはダニエル・ワロー譲りのようで、
マロヤの祖先崇拝の祭儀セルヴィ・カバレにインスパイアされたと語っています。
レパートリーもマロヤの儀式で歌われる古い伝承曲を中心に選曲するなど、
ディープ・ルーツへのこだわりがうかがえます。
面白いのは、ジャン=ディディエはロックにはあまり関心がなかったそうで、
逆にレユニオン生まれのギタリストのステファン・オアローは、
ジミ・ヘンドリックスとレッド・ツェッペリンを聴いて
ギターを弾き始めたロック少年だったとのこと。
ステファンとジャン=ディディエは同じ苗字とはいえ血縁関係はなく、
フランスで出会って、マロヤ・ロックを共同で作り上げたんですね。
マロヤを現代化するためにロックを借りたのではなく、
奴隷時代の宗教的な祭儀で歌われたマロヤへとさかのぼるために、
ロックのエネルギーを借りたところが、トランス・カバールのユニークなところ。
グループ名が意図するとおり、
彼らはマロヤを演奏する場のカバールを超えんとしています。
Trans Kabar "MALIGASÉ" Discobole 88875013552 (2018)